「ーーーこちらが、検査結果になります」

病院の診察室の空気はどこか張り詰めていた。無表情の医師がメガネをクイと上げた後、封筒を取り出して星野絵梨花(ほしのえりか)に渡す。それを絵梨花は震える手で受け取る。彼女の左の薬指に嵌められたダイヤモンドの指輪が、診察室の光に照らされ、キラリと輝く。

絵梨花はゆっくりと封筒を開ける。そこには一枚の紙が入っていた。そこに書かれていた言葉に絵梨花は肩を震わせる。

「先生、私はーーー」

「はい、陽性でした」

医師の口から出た言葉に、絵梨花の瞳から涙が零れ落ちた。



病院を出た後、絵梨花は重い体を引きずるように動かしながら、何とか家まで帰ることができた。絵梨花が暮らしているのは、築十年とまだ新しいマンションだ。

「ただいま」

鍵を開け、家に入ると自然と言葉が飛び出す。だが部屋の中はシンと静まり返っていた。この部屋の中には絵梨花しかしない。だが今は、一人であることにホッとしていた。