私、何か勢いで言っちゃったけど…


彼は毎週トレーニングに来てるんだ…


努力家なんだと関心したのと、クラスでは目立たず無口な彼だったので私の好奇心を少しくすぐられたからか咄嗟にあんなことを言ってしまっていた。


とりあえず私はおばあちゃんへの届け物を済ますために自転車に乗り走り始めた。





そして月曜日になり私はクラスの友達と話をしていると彼が登校してきた。


彼は脇目も振らず自分の席に着いて教科書を取り出し勉強をしていた。


そんな彼に私はぼんやりと視線を奪われていると、


瑞穗「どうしたの、茜?」


と、土生瑞穗に声をかけられ…


茜「あ、うぅん……」


と、また会話に戻った。


それから時折休み時間など彼のことを見ていたが、特に誰かとつるむこともなく一人で勉強している姿が目立っていた。


部活のときも他の部員と話すわけでなく淡々とこなしていた印象だった。




そして日曜日がやってきた。


先週と同じ時間に私もジャージを来て自転車で船岡山公園へ向かった。


公園に着くとすでに彼の自転車が停めてありハンドルにラケットが掛けられていた。


私もそのすぐ隣に自転車を停め前カゴにラケットを入れてストレッチを始めた。


するとほどなくして彼がまた走って下りてくるのが見えた。


彼は少し驚いた表情で私に話しかけてきた。


樋口「本当に来たのかよ?」


茜「うん、来るって言ったじゃん」


樋口「まぁいいけど…」


と、言って彼はまた走って登り始めた。


茜「え、ちょっと待ってよ!」


と、私は慌てて後を追い始めたけれど彼は見向きもせずに自分のペースで走り続けた。


この公園は一周すると2キロほどあり、石段でのアップダウンがあったり神社の境内を通ったり坂道があったりと割と変化に富んだコースだった。


半周もしない間に彼の姿は見えなくなり私は結局一人で走っている感じになってしまった。


茜「あいつ早いなー!それに何周するんだ?」


と、思いながら二周して自転車のところへ戻ってくると私は足を止め呼吸を整えた。


するとすぐに彼が来て、


樋口「無理すんなよ」


と、言ってまた周回していった。


私ももう一度後を追って走り始めたがやはり彼のペースには付いていけずにすぐに姿が見えなくなった。


そして一周して自転車のところまで戻ってくると彼はストレッチを始めていた。


私は少し息を切らしながらも彼に話しかけた。


茜「いつも何周してるの?」


と、聞くと…


樋口「五周だよ……一周2キロとして10キロぐらいかな」


と、答えた。


茜「すごいね、これ毎週やってんだ」


と、言う私に…


樋口「本当は毎日でもやりたいけどな」


と、単調な口ぶりで話した。




第九話へつづく…