「あ…あ…あたし………」


百合香の脚が震えている。


「なに〜?できないの、百合香ちゃん?そんなわけないよねえ?」


麗華の抑揚のない声が頭の中で響く。


「で…きる。やる。」


百合香…!
やめて!
あたし、百合香の汚いところなんかもう見たくないっ!


あたしの願いなんてただの願いだった。

百合香は学生鞄を振り上げる。

辞書、教科書、パソコンの入った重い鞄。


「ひっ……!」


あたしは恐怖と苦痛で動けず、目を瞑った。


———バシッ!


大きな音。
ワンテンポおくれてあたしの頬に激痛が走る。

痛い痛い痛い痛い!!

口の中に鉄の臭みが広がる。

口から垂れる唾は赤く染まっていた。

それだけじゃ終わらなかった。


「うわっ!!」


百合香の声。

そして、あたしの腹部に鈍痛。


小柄な百合香が、鞄を振り下ろした衝撃で釣られて倒れ込んできたのだ。

あたしの腹部に。


「うっ……!」


胃の中のものが逆流してくるのが分かる。


「うううう……」



すんでのところで持ち堪える。

鼻の奥がツンとして、頭が痛い。

涙が溢れる。


———カシャッ!


「もー!!百合香ちゃんのばか!映っちゃってるじゃん!これじゃ投稿できない〜!」


彩綾がスマホを握りしめて百合香に怒鳴る。


「あ……ご、ごめ…あたし…」


百合香がモゴモゴと弁解をする。