「ななみんがあんたに言いたいことあるらしいよ?」


校舎裏に着くなり、壁にドンと打ちつけられる。

柑奈がニヤリと笑い、手を前に突き出してこちらに倒れてくる。

いや…!

叩かれる…!!



ドンッ!!!




———こんな形で、人生初の壁ドンされたくなかった…




柑奈の整った顔立ちを間近で見ながら、あたしは恐怖で震えていた。


「ななみん、言ってやりなよ。かわいそうな清水愛香に。」


奈々美の顔には、すっかり定着してしまった薄っぺらいよそよそしい笑みが張り付いていた。

もう、元の奈々美の顔は無くなってしまったのだろうか。


「愛香………。」


奈々美はゆっくりと口を開いた。

早くも夏の匂いのする穏やかな風が奈々美の髪を揺らす。

いつのまにか茶色くなっている奈々美の髪を。

奈々美の目は、冷たかった。


「………ねばいい…」


ポソッと奈々美がつぶやく。


「し…ねばいい…っ!!あんたなんか死ねばいい!!!いらない正義感振りかざして、麗華姫を侮辱した!!あんたも、あんたの仲良しこよしの百合香も……っ…!みんな、死ねばいいっ!!!」



目の前が真っ暗になる。

震える奈々美の唇から紡がれる言葉は、あたしの知っている奈々美のものではなかった。