「え…?な…なな…なんで…」
裕二がまた震え出す。
「俺は、助けるなんて一言も言ってねぇからな〜。」
夜風が裕二の首を締め上げる。
「やめてくれぇ!!謝ったじゃないか!あいつに、土下座したじゃないかぁ!!!」
裕二があたしを指差して言う。
「謝って済むなら警察なんて必要ないだろ?」
夜風が裕二を崖の淵に引きずっていく。
震える足で立ち、裕二が崖の下を覗く。
「ああ………」
何という情けない姿だろう。
これが裕二の本性だ。
「愛香。」
あたしは、無言で頷いた。
あたしだって、怖いよ。
すごく、すごく怖い。
今だって、こんなに手が震えている。
怖いんだよ。
あたしが汚れてしまうことが。
この手で人を殺めてしまうことが。
でも。
「そんなに悪いことしてきた人たちがのうのうと生きていちゃ、いけないよね。」
あたしは、震えてどうしようもない手で、裕二を力いっぱい押した。
———崖の下へ向けて。
「ぎゃぁぁぁぁぁあああ!!」
さっきの男たちとは違って、叫び声を上げながら落ちてゆく裕二。
それは、ずっと、ずっとリアルで。
「う…ぁ…ぁぁぁぁ……」
あたしは泣いた。
とうとうやってしまった。
この手を汚してしまった。
殺してしまった…
復讐をすることは、辛い…けど。
ちゃんと、やらなきゃ。
あたしは、涙を拭ったんだ。
夜風があたしを抱き締めた。
あたしはその温かさに全てを任せて、泣いていた。