「『オプスキュリテ』では、数多くの武器を取り扱っていると聞きます」

「…まぁな」

これでも、ルティス帝国裏社会ではそこそこ名の知れた武器屋だからな。

「『青薔薇連合会』及び、我々傘下組織も恩恵を預かっております。本当に、あなた方のご厚意に感謝を…」

「…厚意じゃねぇよ。商売だ」

何も俺達は、慈善事業で武器を提供している訳じゃない。

きちんと対価はもらっているのだから、おべっか使われる筋合いはない。

「御託は良い。商談を長引かせたくないんだ。さっさと本題に入ってくれ」

「は…。左様ですか」

「何でも、ルティス帝国史上例を見ない、珍しい武器を開発したらしいな」

最初に、俺達『オプスキュリテ』に連絡をしてきたとき。

そのような文書が送られてきた。「これまで見たこともないような、画期的な武器の開発に成功した」と。

そして、その武器を『オプスキュリテ』で扱い、利益の一部を『M.T.S社』に還元して欲しいと。

俺がこいつらを胡散臭いと思ったのは、それが理由だ。

『青薔薇連合会』の傘下とはいえ、しがない木っ端組織ごときが、一体何を開発したと?

「よくぞ聞いてくださいました。我々が開発したのは…」

「大体、何でその武器の売買を、俺達に委託するんだ?」

その武器の正体を聞く前に、俺はずっと疑問だったことを尋ねた。

お前達が新兵器の開発をしているのは分かった。武器の開発はマフィアの領分ではなかろう、とは思うが。

自分達の使う武器を自分達で製造する。製造過程を確立させれば、俺達みたいな商人から買うよりは安上がりだろう。

だから、そこまでは分かる。

お前達が武器の開発に注力しているってことは。

それは良い。理解出来る。

しかし、何故その完成品の売買を、俺達に持ちかけてくる?

「お前達は『青薔薇連合会』の傘下なんだから、俺達に声をかけるより先に、まず自分達のお上にお伺いを立てるべきだろ」

お前達がその武器を売って商売するにしても、俺達より先に『青薔薇連合会』に声をかけるべきだ。

『青薔薇連合会』は『M.T.S社』の、言わば上司なのだから。

上司に報告することなく、勝手に売買を始めて良いのか。

それとも…敢えて、『青薔薇連合会』には黙って事を進めようとしているのか。

もしそうだとしたら、俺は…。

「えぇ、そうかもしれませんね。しかし我々は…この件は、『青薔薇連合会』には伏せておくつもりです」

にこにこと愛想良く振る舞っていた『M.T.S社』の営業の男が。

突然、顔色を堅くしてそう答えた。

…やっぱりな、ビンゴか。

こいつらは、飼い主に反旗を翻すつもりなのだ。

「何故黙ってる?」

「それは…。…彼らに話を通したら、我々の儲けが減ってしまいますからね」

…本当に、それだけか?

ただ儲けの増減だけで、こんなに大事なことを『青薔薇連合会』に黙っているつもりなのか?

事の次第が『青薔薇連合会』にバレたら、自分達もタダじゃ済まないことは分かっているだろう。

…そのリスクを背負った上で、まだ何か、こいつらには旨味があるのだ。

『青薔薇連合会』に黙って金儲けをすることで、得られる何かが。

…マフィアにこんなこと言うのも何だが、『青薔薇連合会』もなかなか人徳がないな。

傘下組織に逆らわれるとは。