――――――…今回、自警団団長のブロテと共に『青薔薇連合会』への立ち入り調査に同行した。

その理由はひとえに…「あの男」の姿を確認する為だった。

「…どうだった?」

俺の協力者は、『青薔薇連合会』のもとから帰ってきた俺に、真っ先に尋ねた。

『青薔薇連合会』はどうだったか、と聞いているんじゃない。

俺達の目的は、『青薔薇連合会』などではない。

「あの男」一人だけだ。

「…いたよ」

久し振りに、「あの男」の顔を見た。

…酷く醜悪な顔だった。

相変わらず、悪魔のような…死神の顔だった。

咄嗟に彼に斬り掛かりたくなったのを、必死に堪えなければならなかった。

我ながら、あの顔を見てよく理性を保てたものだと思う。

「…相変わらず?」

「あぁ、そう見えた」

「彼」は相変わらず。

相変わらず…悪魔の化身だった。

俺が知っている頃の「あの男」と、何も変わらない…。

…そして、俺の憎しみもまた…何年経っても、深まるばかりで少しも薄れない。

「あの男は…あなたに気づかなかったの?」

「恐らく、気づいてない。あの男が話していたのはブロテ団長だけで、俺のことなんて眼中になかった」

そう。今の「あの男」が、俺に目を向けるはずがない。

俺のことなど…俺達のことなど…覚えてもいないはずだ。

過去のものとして、とっくに忘れ去っている。

そうだろう。あの男なら。

だけど、俺は忘れない。俺達は。

自らが受けた傷、その痛み。そして憎しみも。

「あの男」が俺達を忘れたとしても、俺達は決して忘れない。

だからこそ俺達は、「あの男」への復讐の為に…帝国自警団に入団したのだ。

「何も見つからなかったのよね。『青薔薇連合会』を検挙する証拠は」

「あぁ。巧妙に隠されていたらしい」

「…あいつらのやりそうなことだよ」

そうだな。

それもこれも、「あの男」の指示なのだろう。

小賢しいところと、手が早いところは相変わらずのようだ。

「それじゃ、ブロテ団長は?これからどうするって?」

「諦めるつもりはないらしい。今後は別のアプローチで、『青薔薇連合会』を追い詰める手段を模索すると」

「そう…。良かった」

本当に…良かったな。

俺達が帝国自警団に入ったのは、正解だった。

「俺達は良い時期に入団したな。俺達が動かなくても、ブロテ団長が主導して『青薔薇連合会』を追ってくれる」

自警団に入る前は、そこまで自警団に期待していなかった。

如何せん帝国自警団はここ10年、腑抜けているも同然だった。

俺達が最近に至るまで、帝国自警団の力を借りなかったのはそれが理由だ。

自警団など名ばかりで、実態は無力だったから。

それでも俺達が自警団に入ったのは、帝国自警団の権力を利用する為だった。

必要なら、俺達が自警団をけしかけて、『青薔薇連合会』とぶつけさせるつもりだった。

…しかし、その必要はなかった。

俺達が入団すると同時に、自警団の本来の団長…ブロテ・ルリシアスが帰ってきた。

彼女は俺達が誘導するまでもなく、『青薔薇連合会』を危険視し、そして「あの男」を追い詰める為に行動を起こした。

俺達にとっては、実に都合の良い話だ。

このまましばらくは、ブロテ団長に任せ…「あの男」を追い詰めてくれるのを待つとしよう。

上手く行けば…俺達の目的は達成されることになる。