「やれやれ…。鬼が出るやら蛇が出るやら…。…気が重いな」

「そんなに嫌ですか?」

と、マキナス。

「そりゃ嫌だろ。お前も聞いたろう?今日の商談相手…」

「えぇ…。まぁ、かなり胡散臭い相手ではあるようですね」

その通り。

胡散臭い上に、何処かきな臭い。臭いとこだらけだ。鼻が捩れそう。

「だからって、無視する訳にはいかないからな…」

「そうですね…。相手が相手だけに…」

「まぁ、話を聞くだけならタダだ。どんな取引を持ちかけられようが、俺は応じるつもりはない。聞くだけ聞いて、さっさと退散だな」

気の食わない相手と、ちょっとコーヒー囲んでお喋りするだけ。そう思おう。

どんなに上手い話を持ち込まれたとしても、契約書にサインするつもりは毛頭なかった。

「そんなに信用なりませんか?案外、話を聞いてみたら悪くないかもしれませんよ」

「…そうかもな。でも…関わらない方が良い。そう感じるんだ」

長いこと生きていたら、お近づきになって良いものとそうじゃないものが、自然と見分けられるようになる。

と言うか、そういうことを正しく見分けられるからこそ、長生きが出来るのだ。

君子、危うきに近寄らず。

これぞ人生のコツだな。

まぁ、時と場合にも寄るが。

時には、危険と分かっていて飛び込む必要があることもある。

出来るだけ、そのような事態は避けたいもんだ。

「…さぁ、着いたぞ。ここだな」

付き添いにマキナスを連れて、俺は取引会場となる帝都の某ホテルに足を踏み入れた。

商談相手の男は、俺の姿を見るなり、顔に貼り付けたような笑みで挨拶してきた。

「今日はわざわざ足を運んで頂いて、ありがとうございます。…我々のことはお聞き及びだと思いますが」

「あぁ。『青薔薇連合会』の下部組織…『M.T.S社』だったか」

「えぇ、そうです」

言わずもがな、『青薔薇連合会』はこのルティス帝国裏社会において、もっとも幅を利かせているマフィアだ。

そして、今回商談の依頼があった『M.T.S社』は…その『青薔薇連合会』の下部組織の一つだそうだ。

『青薔薇連合会』は、俺達にとって一番と言って良いほどのお得意様。

個人的に気が進まなくても、今回『M.T.S社』の依頼を受けて、ここに足を運んだのはそれが理由だ。

『青薔薇連合会』の息がかかっている組織となれば、それなりの礼儀を尽くさなければ、後で角が立つ恐れがある。

そうでもなきゃ、今頃俺はここにはいない。

あんな胡散臭い商談の依頼は、話を聞くまでもなく門前払いしていただろう。

「あなたが、『オプスキュリテ』のリーダー…ジュリスさんですね?」

「あぁ、そうだ」

「お噂はかねがね。これほどお若い方だとは思いませんでした」

若いように見えるか?

だとしたら、お前の目は節穴だな。

「あなたほどの方にお会い出来て、とても光栄です」

「褒めても何も出ねぇよ。俺はただの、しがない武器商人だ。世辞は良いから、さっさと商売の話をしてくれ」

「は…。ありがとうございます。それでは」

俺は『M.T.S社』の男と向かい合って、席に着いた。