The previous night of the world revolution7~P.D.~

帝国自警団の団長…か。

会ったことはないが、名前は確か…。

「…ブロテとか言いましたっけ。ブロテ・ルリシアス」

「その通りです、さすがルレイア師匠。よく覚えてますね」

記憶力は良い方なんですよ。これでもね。

「団長代理の方は知りませんけどね。何て名前なんですか?」

「僕があのとき会ったのは…マリアーネとかいう女でしたね」

マリアーネ…聞き覚えはないな。

いずれにしても、その団長代理は大したことはしてないみたいだから、覚えてなくて良いけど。

マリアーネとかいうのは大人しかったのに、大人しくない方の本来の団長が帰ってきてしまったと。

面倒な話だ。

そのまま一生留学して、アシスファルト帝国の人間になってれば良かったのに。

「なー。アリューシャ全然分かってないんだけどさー」

と、アリューシャは両手を頭の後ろで組みながら言った。

「そのじけーだんって奴は、偉いの?」

かなりざっくりとした質問である。

でも、偉いか偉くないかで答えると…。

「偉いですよ。政権を持たない以外は、ほとんど帝国騎士団と変わらない権力を持ってますから」

「…せーけん?」

「政治をする権利のことだよ、アリューシャ」

と、アイズが説明してあげていた。

非常にざっくりとした説明だが、分かりやすく言うとそうなる。

「偉いのは帝国騎士団だけじゃねーの?そいつらも偉いのか」

「えぇ。与党と野党みたいなもの…って言っても、アリューシャはあまりピンと来ないかもしれませんが…」

「よとー…。やとー…。それってあれか。砂糖の一種か?」

違う。糖じゃなくて、党。

「…この馬鹿アリューシャ…」

ルルシーが毒づいていた。まぁまぁ。

帝国騎士団とほぼ同等の権限を持つとはいえ、どうしても帝国自警団は、帝国騎士団より影が薄いから。

ましてや、ここ10年近くずっと、自警団は鳴りを潜めていた訳だし…。知らなくても仕方がない。

すると。

「私もよく知らないんだけど…。自警団って確か、帝国騎士団の暴政?を抑制する為の組織なのよね」

シュノさんが、もう少し詳しい質問をした。

「えぇ、その通りです。帝国騎士団の一党独裁が起きないよう、いざというとき帝国騎士団を止める為に…帝国騎士団とほぼ同等の権限を持ち、常に帝国騎士団を見張ってるんですよ」

「成程…。…それって結構、重要な組織ってことよね?」

シュノさん、あなた相変わらず、良いことを言いますね。

俺もそう思います。

「重要な組織ですよ、それなりにね。帝国騎士団の監視だけではなく、ルティス帝国に有事があれば、帝国騎士団と共に解決に当たるのも仕事です」

「有事って…。…この10年間、有事は何度もあったはずだけど…。全然名前も聞かなかったわね」

「そのマリアーネという女が、余程無能だったんでしょう」

マリアーネが帝国自警団の団長代理を務めている間、ルティス帝国では何があった?

元童帝坊ちゃんによる、箱庭帝国の革命に巻き込まれたり。

シェルドニア王国の内輪揉めに付き合わされ、危うくルティス帝国侵攻の危機を迎えたこともあった。

その後は、年齢サバ読みおばさんことルチカ・ブランシェットの『天の光教』事件。

そしてそれに続く、『帝国の光』率いるルティス帝国の共産主義運動の活発化…。

ぱっと思い出せるだけでも、これだけある。

細かい事件を挙げていたら、他にもたくさんある。

たった10年の間で、ルティス帝国も波乱万丈、激動の時代を送ってきたもんだ。

そして、いずれの事件においても。

渦中にいたのは、帝国自警団ではない。

帝国騎士団と、それから俺達…『青薔薇連合会』だった。