ルレイア師匠との通話を終えると。

「…だいじょぶ?どうしたの?」

セカイさんが、心配そうな顔で僕を見ていた。

あぁ、罪悪感。

「緊急の要件ですか」

と、フューニャさん。

そうなんだよ。

「誠に申し訳ないんですが、ちょっと今すぐ本部に戻らなきゃならないようです」

「えっ…」

…こんな予定ではなかったんだけど。

非常に恐縮。

折角水着を用意して、バーベキューの準備までしてきて、丁度食べ始めたところだったのに。

ここで途中離脱とは…。

「えぇぇ。ルーチェス君帰っちゃうの?」

セカイさんの、この悲しそうな顔。

罪悪感のあまり、ちょっとそこの沖に飛び込みたくなる。

「済みません。どうしても行かないと…。緊急事態なんです」

「そっかー…。…それなら仕方ないね。行ってらっしゃい」

僕が後ろ髪を引かれるような思いをしないように。

セカイさんは笑って、そう言ってくれた。

やっぱり罪悪感。

すると。

「あの、ルーチェスさん」

ルヴィアさんが、僕に声をかけてきた。

「何ですか」

「何があったのか分かりませんけど…。俺も同行しましょうか?」

「…」

…ルヴィアさんは、ルルシーさんの派閥の準幹部なんだっけ。

幹部組が召集されたってことは、遠からず準幹部にも話が行くだろうが…。

現状、ルヴィアさんに呼び出しの連絡はない。

恐らくアシュトーリアさんは、まずは幹部組に事の次第を伝えてから、その後準幹部以下に話を通すつもりなのだろう。

アシュトーリアさんじゃなくて、アイズ総長の判断かもしれないけど。

まぁ、どちらでも良い。

要するに、ルヴィアさんはまだ知る必要がないということだ。

「いえ、準幹部への指示は、追って出るでしょうから…今は」

「…分かりました」

緊急事態が起きたことは知ってるのに、実際何が起きたか知ることが出来ないのは、酷くもどかしいと思うけど。

こればかりは、僕の判断でどうにかなるものじゃない。

…それに。

「ルヴィアさんは、フューニャさんとセカイさんをお願いします」

僕とルヴィアさんが途中退席したら、女性陣が二人きりになってしまう。

二人を置き去りにして帰るなんて、いくらなんでも無責任過ぎる。

いや、途中退席しようとしてる僕は、充分無責任だけども。

せめて、後のことを託せる人間が欲しい。

「あと、バーベキューの片付けも。お願いして良いですか」

「はい、分かりました」

「本当済みませんね」

誘ったのは僕らの方なのに、途中で帰らなきゃならないとは。

なんてタイミングの悪さ。

…それなのに。

「いえ…。緊急の呼び出しなら、仕方ないですよ」

「良ければ、また日を改めて来ましょう。海は逃げません」

「大丈夫大丈夫。今度埋め合わせしてね〜」

ルヴィアさんもフューニャさんも、それにセカイお姉ちゃんも。

誰も僕を責めることなく、そんなやさしい言葉をかけてくれた。

僕は良いご近所さんと、良い奥さんをもらったなぁ。

「それじゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい、ルーチェス君」

…こうして。

僕は海水浴に来たのに、一滴も海水に触れることなく、水着姿のまま海水浴場を後にした。

着替えは…後でしよう。