…しかし。

階段で最上階まで駆け上がる必要はなかった。

「ちっ…。こっちです」

「…」

物陰に潜んで、この先の廊下を盗み見る。

そこには、マシンガンを抱えた巡回中の末端構成員が、きょろきょろと辺りを見渡していた。

彼らの目から逃れる為に、俺は近くにあった無人の物置部屋に入った。

ふぅ、とりあえず一息。

しかし、ミミニアは。

「何故立ち止まる?」

イライラしたような口調で言った。

そんな怒るなよ。

「見たでしょう?見張りがいるんですよ。彼が立ち去るまで待たないと…」

「悠長なことをしている場合か?」

悠長って。

「じゃあどうしろと?」

「あんな雑兵一人、私の敵ではない。後ろから襲って黙らせれば…」

なんと血の気の多い答え。

無益な殺生は良くないと思うんですよね。

「見張りの構成員は、皆無線で連絡を取り合っています。一人でも潰してしまったら、すぐ異常に気づかれるでしょう」

「…」

「どうやら、本部内も多少見張りを強化しているようですね。ここは慎重に動くべきです」

「…急がねば。セルテリシア様が合流される前に、アイズレンシアを殺しておく必要があるんだぞ」

はいはい。

俺としてはそうなって欲しくないので、精々時間稼ぎに努めますよ。

「分かってますよ」

「良いか、これは貴様が言い出した作戦だ。『青薔薇連合会』に乗り込み、アイズレンシアを殺せば良いと。自分の言い出した作戦なのだから、責任は取ってもらうぞ」

聞きました?今の。

仮にも味方に言う言葉じゃありませんね。

「お前が言い出しっぺなんだから、失敗してもお前のせいだからな」だって。

小学生のイタズラかよ。

こいつの器は、猫の額ほどもないな。

ミジンコサイズだ。

心の底から軽蔑しながら、俺は物置部屋の扉の取手を掴んだ。

分かりました。分かりましたよ。

急げば良いんでしょう?見つかっても知りませんからね。

「そろそろ撒いたでしょう。行きますよ」

「早く案内しろ」

偉そうに。

俺は物置部屋を後にして、非常階段に向かって走り出した。

「ここから4階まで行けます。その後は西棟に向かって、更にそこから6階まで…」

「ちっ…。何故そんなに複雑なんだ」

いや、当たり前じゃないですか。

敢えて、複雑な造りになってるんですよ。

「『ブルーローズ・ユニオン』もそうじゃないんですか?侵入防止の為に…」

「『青薔薇連合会』ほど複雑ではない。…わざと遠回りしてるんじゃないだろうな?」

ぎくっ。

それはまぁ、聞こえなかったということで。

「良いから、黙ってついてきてください。この先に…」

と、俺が言いかけたそのとき。

「…この先に、何があるって?」

「…!」

突如聞こえたその声に、俺とミミニアは足を止めた。