アイズは、素晴らしい手腕を見せてくれた。

「…着きましたよ、ここです」

薄暗い地下通路の突き当りに、錆びかけた鉄の扉が現れた。

鉄の扉には、当然鍵が掛かっている。

「鍵はどうやって開けるつもりだ?」

ミミニアが、キッ、と俺を睨んだ。

そんな睨むなよ。

鍵なんて、俺は持っていない。

でも鍵なんて持っている必要はないだろう?

「開ければ良いってだけでしょう?」

俺は自分の前髪につけていたヘアピンを取った。

いつもなら、鎌を一振りしてダイナミック入室するところだが…。

さすがに今回は隠密作戦ってことになってるので、派手に凱旋するのは無理だ。

うーん、残念。

でもよく考えたら、『青薔薇連合会』の地下通路の扉を壊してしまったら、仲間に迷惑をかけてしまう訳で。

ここは大人しく入るとしよう。

ヘアピンを鍵穴に突っ込んで、ものの数秒で解錠。

「はい、開きましたよ」

「…」

これには、ミミニアも少し驚いていた。

おいおい。『ブルーローズ・ユニオン』の幹部様は、鍵開けもろくに出来ないのか?

この程度も出来なくて、よくもまぁ偉そうにふんぞり返っていたもんだ。

内心鼻で笑いながら、しかし顔には出さない。

こんなところで喧嘩したら、暗殺計画どころじゃない。

「さぁ…それじゃ、入りましょうか」

ヘアピンを前髪につけ直して、俺は鉄の扉を開けた。

…平時であれば、扉を開けた瞬間に、拳銃の銃口がお出迎えだろう。

俺達が地下通路を使って『青薔薇連合会』本部に向かっていることは、既にアイズ達も知るところ。

俺達が本当に敵なら。本当に裏切っているなら。

この場で、反撃の隙を与えず蜂の巣にするだろう。

…しかし。

「…」

鉄の扉を開けた先に待っていたのは、銃口ではなかった。

地下室の中は、不気味なほどがらんとしていて、人っ子一人いなかった。

ほらね、アイズなら大丈夫って言ったでしょう?

彼なら、俺の期待に応えてくれると思っていた。

信じてはいたけど、でも実際に目にするまでは、やはり安心は出来なかった。

こうして誰もいない地下室を見て、心底ホッとした。

しかし、俺はそれを顔に出すことなく、ミミニアに振り向いた。

「行きましょう。アイズは上でしょうから」

「どうやって上がるつもりだ?」

「向こうに非常階段があります」

まさか、エレベーターで優雅に上がる訳にはいきませんからね。

他の構成員と鉢合わせしない為には、非常階段を使うしかないだろう。

アイズのいる(であろう)最上階まで、エレベーター無しで行こうと思ったら、相当時間がかかるはずだ。

考えただけで足がだるくなるが、仕方ない。

筋トレだと思って、付き合ってもらうぞ。