「彼の方が私より遥かに、『青薔薇連合会』首領に相応しい…私はそう思います。でもエペルやミミニアは…サナリ派の皆さんは…」

「…そうは思ってないんですよね。アイズ総長は貧民街出身で…」

「はい。サナリ派の皆さん曰く、アイズレンシアさんのような賤しい身分の方は、『青薔薇連合会』首領に相応しくないんだそうです」

賤しい身分って。

じゃあどんな身分なら納得なんですか。僕ですか?

「サナリ派の皆さんの言い分も分かります。実力主義は確かに平等です。しかし…偉大な人物の血を継ぐ者もまた、組織を率いるのに相応しい資格を持っているのでしょう」

「…分かりますよ」

サナリ派が本当に担ぎたいのは、セルテリシアではなく、彼女の大叔父であるサナリ・リバニーだ。

彼があまりに優秀で立派なリーダーであったが為に、人々の心の中にはサナリ・リバニーの威光が住み着いている。

世代が変わっても、彼の威光は心の中に色濃く残っている。

しかしサナリは死人だ。墓の下にいる。

死者を担ぐことは出来ない。故に。

その死者と近い血縁の者を、代わりに担ぐ。

サナリ派の者は、セルテリシアを仰いでいるのではない。

「偉大なリーダーの血を受け継ぐ者」を仰いでいるのだ。

人々はセルテリシアの中に、サナリ・リバニーの面影を見ている。

それはひとえに、セルテリシアがサナリ・リバニーの血を継いでいるからだ。

最早それだけで、セルテリシアが『青薔薇連合会』の首領に相応しい人間であると言える。

同じ結婚するなら、何処の馬の骨とも知れない、学もない流れ者のルンペンより。

きちんとした家柄で、教養もある、立場のしっかりした人と結婚したいだろう?

少なくとも、後者の方が遥かに「見栄えが良い」のは事実だ。
 
サナリ派の連中が、およそリーダーとしての素質などないセルテリシアを担ぎ上げるのは、そういうことだ。