しかし、新生活は楽ではない。

「ねぇルルシー。これ、今度の『ブラック・カフェ』の限定メニュー候補なんですけど。どれが良いと思います?」

「…」

ルルシーは顔をしかめて、俺が差し出した限定メニューの試作品を見下ろした。

テーブルの上には、3品のデザートが乗っている。

今回はのメニューは、ミルクレープ、モンブラン、果物のコンポートを乗せたゼリー。

その色は、勿論…。

「…これが普通の色だったら、もっと美味しそうだったろうに…」

ミルクレープの生地もクリームも、当然ながら全部黒。

モンブランのスポンジもクリームも、頂点に乗っているマロングラッセも黒。

ゼリーも透き通った黒で、添えてあるフルーツのコンポートも、言うまでもなく黒である。

いやぁ、なんて目に良いデザートだろう。

「こんなものばかり作らされて、お前のハーレム会員が気の毒だ」

「良いから良いから、試食してみてくださいよ」

「何が良いんだよ」

大丈夫ですよ。

これらのデザートを考案したハーレム会員には、きちんと報酬を…。

いや、「ご褒美」を与えてますから。

「この3種類のうち、どれかを再来月の限定メニューにするつもりなんです」

「ふーん…?どれでも良いんじゃないか?」

ちょっと。何でそんなに投げ槍なんですか、ルルシー。

もっと真剣に考えてくださいよ。俺の店の売り上げがかかってるんですよ?

「食べてみてから判断してくださいよ」

「いや、だって美味しいのは分かってるからさ…」

そりゃ美味しいですよ。試作品を作るに当たって、それなりの試行錯誤を重ねてきてますから。

でも、食べてみないと分からないことってあるでしょう?

「忌憚なき意見が聞きたいんですよ、ルルシーの口から」

「断る」

聞きました?今の。

俺がこんなに頼んでいるというのに、一刀両断ですよ。

「何でですか?ルルシーは俺が嫌いなんですかっ?」

「何でそうなるんだよ。違うわ」

あ、違うんだ。良かった。

「じゃあ、何で駄目なんですか?」

「…なぁルレイア。この三種のメニューだけどさ」

「はい?」

「これ、原材料は何処から取り寄せた?」

このデザートの原材料ですか?

それは勿論。

「シェルドニア王国です」

「それが理由だよ。俺が食べたくないって言ってるのは」

…え?