驚いて、私達は揃って顔を上げた。

そこにいたのは、ルルシーの派閥の準幹部。

箱庭帝国秘境の里出身の妻を持つ、ルヴィア・クランチェスカだった。

「どうしたの、ルヴィア」

彼の、この青ざめた表情を見るに。

どうやらただ事ではなさそうだね。

呑気にトランプをしている場合…ではなかったかな。

「る、ルルシーさんが…。ルルシーさんだけじゃなくて、ルレイアさんと…ルーチェスさんも…」

青ざめた顔で震えながら、ルヴィアは喘ぐようにそう言った。

ルヴィアがこれほど狼狽えるんだから、本当にただ事じゃないんだね。

「…どうしたの?ルレイアがどうしたって?何があったの?」

ルレイアの名前を聞いて、すかさずシュノが立ち上がった。

「ま、まさか…ルレイアが、ルレイア達が暗殺者に襲われたの?」

シュノは、私が真っ先に思いついたことを口にした。

ルヴィアがこれほど慌てて、報告に来るくらいなのだ。

それくらいのことが起きていてもおかしくない。

私を暗殺する…と見せかけて、ルレイアやルルシー達の命を狙う。

充分に有り得ると思っていた。頭を潰すより、私の腕となる幹部の皆を先に始末する。

そうすれば私は、『青薔薇連合会』で孤独な王と化す。

その危険性は理解していたけれど、ルレイアやルーチェス達に護衛をつけるよう指示はしなかった。

彼らは、自分の身を自分で守れる人達だからだ。

むしろ彼らの場合、護衛をつけたとしても、むしろその護衛が足手まといになりかねない。
 
そう思ったから、ことさらに護衛をつけることはしなかった…。

それが今になって、裏目に出て…。

…しかし。

「いえ…。そうではなく…」

「…え?」

暗殺者に狙われた訳ではない?

それじゃあ、何が…。

「どうしたの?ルレイアに何が…ルレイアは無事なの?」

シュノは血相を変えて、ルヴィアに掴みかかった。

ルヴィアもまた血相を変えて、そして答えた。

「…無事です。ルレイアさん達は…」

「無事…なの?それじゃあ…どうしたの?ルレイアに何が…」

命は無事。それなのにこうも慌てる理由は…。

…まさか。

「ルヴィア…。落ち着いて。落ち着いて報告してくれるかな」

「は、はい…」

君がそんなに狼狽えていたら、シュノでなくても、私達も不安になるよ。

アリューシャもただならぬ気配を察知して、どうしたものかと不安そうな顔だし。

起きてしまったことは、もう事実として変えようがない。

それよりも冷静に、これからどうするかを考えるべきだ。

その為にもまず…落ち着いて報告して欲しい。

すると。

ルヴィアは一つ深呼吸をして、そして私の目をじっと見つめ。

意を決したように、その重い口を開いた。

「ルレイアさん、ルルシーさん、ルーチェスさんの三名が…サナリ派の…『ブルーローズ・ユニオン』に寝返ったそうです」








…やはり。

そういうことになってしまったか。