―――――――…こちらは、『青薔薇連合会』本部。

私は自分の執務室で、護衛役のアリューシャとシュノと三人で過ごしていた。

さっきから非常に、空気が重い。

いつ来るか分からない暗殺者に怯えて、落ち着かない気分を過ごすというのは辛いものだ。

それに…。

さっきからどうも、嫌な予感がすると言うか…。

事態がこれからどう転ぶか分からなくて、私としても不安だよ。

自分が暗殺されるかもしれないことが不安、なのではなく。 

自分が暗殺されることによって、『青薔薇連合会』に巻き起こるであろう派閥争いが不安なのだ。

下らない内乱のせいで、『青薔薇連合会』という組織そのものが弱体化、あるいは最悪、瓦解することになったら…。

また、国内外に留まらず、『青薔薇連合会』が隙を見せるタイミングを虎視眈々と狙っている組織は山程ある。

派閥争いの弱みに付け入られて、そういう連中に狙われてしまうんじゃないか…。

その不安でいっぱいだよ、私は。

「…アイ公、まーた難しい顔してんぞ」

アリューシャが指を伸ばして、私の眉間の皺を撫でた。

おっと。ごめんね。

「アリューシャには難しいことは分かんねぇけど…。怪しい奴がアイ公を狙ってたら、アリューシャが返り討ちにしてやるから大丈夫だ!」

「そうだね…。ありがとう、アリューシャ」

「そうよ、元気を出してアイズ。私もいるから」

シュノも、努めて笑顔を見せて励ましてくれた。

優しい仲間に恵まれて、私は幸せ者だよ。

「うん、シュノもありがとう」

「あんまり部屋の中でじっとしてたら、気が滅入るのも無理ないわよね…」

「ポテチでも食うか?」 

ポテチも良いんだけど、それはアリューシャのおやつだからね。

すると。

「…ルリシヤ、遅いね」

窓の外をじっと見つめて、シュノがそう言った。

窓の外は、もうとっぷりと日が暮れている。

「日が沈んだら護衛を替わるって言ってたんだけど…」

そうだったね。

昼間はシュノ、夜間はルリシヤが私の護衛を務めてくれる…との話だったはずだが…。

未だに、ルリシヤは本部に戻ってきていない。

ルルシーの家に監視カメラや盗聴器を取りに行ってくる…と言ってたけど。

まだ時間がかかっているのだろうか?

「ルリ公のことだから、またすげー新兵器用意してんじゃね?」

と、アリューシャ。

例の…カラーボール型兵器かな?

あれって多種多様で面白いよね。

毎回毎回、よくアイデアが思いつくなぁって思う。

あれもルリシヤの才能だよ。

「大丈夫だよ、シュノ。帰っても。間もなくルリシヤも戻ってくるだろうし…」

女性であるシュノを、日が暮れてからも残業に付き合わせるのは気が引ける。

しかし、シュノはそれを拒否するように頭を振った。

「ううん、大丈夫。ルリシヤが来るまで、ここで待つわ」

「…良いの?」

「勿論。アイズを守る為だもの」

それは頼もしいね。

私は引き出しの中から、一組のトランプを取り出した。

「じゃあ…ルリシヤが戻ってくるまでの暇潰しに、トランプでもしようか」

あんまり気を滅入らせて、悶々としてても精神衛生上悪いしね。

優雅にトランプを楽しんでるくらいが丁度良い。