俺が気づいたってことは、ルリシヤとルーチェスも当然気づいてますよね。

ちらりと横目で二人を見ると、その引き締まった表情から、やはり二人も気づいたのだということが分かった。

…ですよねー。

全く…。手が早いと言うか、焦ってるって言うか…。

アシュトーリアさんの生死がどうなるのかを待たず、アイズを蹴落として次期首領の座を確約したくてたまらないらしい。

急いては事を仕損じる、ということわざを知らないのだろうか?

知らないんだろうなぁ。

さて、それで…俺達はどうしたものか。

サナリ派が何を仕掛けてきても、俺達は慌てる必要はない。

俺達四人が集まったところに挑んでくるとは、無謀にも程がある。

レベル1の初期装備でラスボスに挑むようなもの。

こてんぱんに返り討ちにしてやりますよ。

「大体な、ルーチェス。お前自分が既婚者だって自覚はあるのか?さすがに、ルヴィアほどストイックになれとは言わないが…」

ルルシーだけが一人、まだ気づいていないらしい。

…俺達の背後から、不審なシルバーの車がつけてきているということに。

「失礼な。自覚くらいありますよ」

「とてもそんな風には見えないがな」

「それどころか、ルルシーさんこそ自覚してないんじゃないですか?」

「…あぁ…?何を?」

怪訝に眉をひそめるルルシーに、ルーチェスが目配せをしながら、小声で言った。

「…後ろ。つけられてますよ」

「…!」

ルルシーは思わず振り返ろうとして、かろうじて理性を働かせて踏み留まった。

それは賢明ですよ、ルルシー。

そんな血相変えて振り向いたら、尾行に気づかれたと証明するようなものだ。

「シルバーの車両だな。800メートルくらい、ずっと距離を保ってついてきてる」

「…何者なんだ?」

さぁ。会って確かめた訳じゃないですから、確かなことは言えないけども…。

「十中八九、サナリ派の一味でしょう」

このタイミングで、俺達『青薔薇連合会』の幹部組を付け狙うってことは。
 
「何で俺達なんだ…?アイズじゃないのか」

「アイズの方も狙われてるかもしれませんね。あるいは…アイズを狙う…と見せかけて、俺達を先に始末したいとか?」

アイズを蹴落として首領の座についても、俺達幹部は納得しない。

素直にセルテリシアを首領と仰ぐことはない。

忠実の欠片もない俺達幹部を、部下として扱いたくはなかろう。

それなら…先に、アイズを擁立する幹部を一人残らず始末する。

そうすれば、必然的にアイズは『青薔薇連合会』の中で孤立する。

更に、セルテリシアが首領の座についた後、自分の信頼の置ける部下を選んで、幹部の座につけることが出来る。

俺達は新『青薔薇連合会』派で、奴らは旧『青薔薇連合会』派。

もうそれだけで、俺達がつけられたり、命を狙われる理由になるだろう?

だからって、まさか白昼堂々尾行してくるとは思ってませんでしたが。

やはり、相当焦っているようだな。