The previous night of the world revolution7~P.D.~

…ところで。

俺は、この謎の黒い食べ物を食べる為に、わざわざオルタンスの部屋を訪ねてきたのではない。

忘れかけてないか?

「もぐもぐ。さすがルレイアだな。センスがある」

オルタンスは何事もなかったみたいに、ルレイアの店のえげつないフレンチトーストと、アップルパイに夢中。

呑気な奴だ。

ただ黒いだけだろ。これの何処がセンス?

なんて俺が言っていたとルレイアに知られたら、鎌を振り回して追いかけられるに決まっているから、言わないが。

「…あのな、オルタンス。さっきルシェからビッグニュースが入ったぞ」

「もぐもぐ。来月の新商品は何だろうな。また買いに行かないと」

そんな毎月新作が出るのか?無駄に手が込んでるな。

もう二度と行かんで良い。

あと、俺の話を聞け。

「『青薔薇連合会』の首領…アシュトーリア・ヴァルレンシーが襲われたらしい。容態は今のところ不明だ」

「もぐもぐ。…もぐ?」

口の中をアップルパイでいっぱいにして、オルタンスの動きが止まった。

そのまま、数秒硬直していた。

…ようやく理解したか?

「…ごくん」

あ、動いた。

「…そうか。それは大変だな」

他人事のようにそう言って、再びアップルパイに取り掛かっていた。

…以上。

まるで、そんなことよりアップルパイの方が重要、とでも言いたそうだった。

アシュトーリア・ヴァルレンシー襲撃のニュースが、漆黒のアップルパイに負けた。

…まぁ、直接俺達には関係のない話だから、ことさらに大騒ぎする必要はないが。

飛び上がって驚愕しろ、とまでは言わない。

が、だからって、そんなに反応が薄かったら俺達も拍子抜けするよ。

なんかもう、色々心配してた自分が馬鹿らしく思えてきた…。