The previous night of the world revolution7~P.D.~

帰る前に、まだやるべきことがある。

「…アリューシャ、ちょっと」

「あん?」

俺は、帰ろうとするアリューシャを小声で呼び止めた。

ちょっとアリューシャに、言っておかなければならないことがあって。

「頼みがあるんですけど、良いですか」

「おう…?そりゃアリューシャに出来ることなら何でもやるけど…。でもアリューシャに出来るのは、格好良く地平線の彼方から狙撃することだけだぞ?」

それが出来るだけで、充分凄いと思いますけどね。

それに、アリューシャに出来ることは狙撃だけではない。

「アイズのことですよ」

「アイ公?」

「えぇ。…普段と変わりないように見えますけど、きっと誰より、この状況に動揺しているはずです」

「…」

アリューシャも分かっているだろう?誰よりもアイズの傍に長くいたんだから。

アイズとアシュトーリアさんが、どれほど強い絆で結ばれているか。

ある意味で、実の親子よりずっと濃い関係だ。

自分の母親とも言える人が危篤状態で、落ち着いていられる者はいない。

本当は誰よりも、シュノさんよりも、周囲に喚き散らして感情を爆発させたいはずだ。

それなのに、彼にはそれが出来ない。

アシュトーリアさんに万一のことが起きたとき、彼女の後を継ぐ者として。

次期首領である自分が狼狽えたら、組織全体が揺れ動いてしまうから。

そして、それを好機と見た敵対組織に付け入られる隙を作ってしまうから。

誰よりも悲しみを露わにしたい…だからこそ、誰よりも冷静でいなければならないのだ。

残酷な話だ。

だからアイズは、間違っても弱気になったりしない。

だけど…それはつまり、自分の感情に嘘を付くということだ。

本当は辛いのに、辛くない振りをしなければならないということだ。

そんなアイズの胸の内を、誰が慰めてあげられるだろう。

俺では駄目だ。ルルシーでもシュノさんでも、ルリシヤやルーチェスでも無理。

それが出来るのは、誰よりもアイズの傍にいたアリューシャだけ。

アリューシャだけなのだ。

だから俺はせめて、アリューシャに託す。

「アイズのこと、支えてあげてください。頼まれてくれますか」

「そりゃあ、お前…。アリューシャが支えられるならいくらでも支えるけど…。それはアリューシャで良いのか?」

「アリューシャだから良いんですよ」

あなたは自分が思ってるよりずっと、アイズの心の支えになっていることを自覚するべきですね。

「アイズを一人にしないであげてください。彼を支えてあげてください。…アリューシャにしか出来ないことなんです」

「…よし来た、任せろ」

アリューシャはどんと胸を張った。

「本当にアリューシャで良いのか分かんねぇけど…。任されたからには全力で頑張るぜ!」

と、頼もしく言えるところはアリューシャの長所である。

あなたの長所は狙撃だけだと、自分では思ってるのかもしれませんが。

他にもアリューシャの良いところって、たくさんあるんですよ。