The previous night of the world revolution7~P.D.~

しかし、理屈では分かっていても、簡単に納得することは出来ないのが人の性というもの。

シュノさんは拳を振り上げ、渾身の左ストレートをルーチェスの顔に叩きつけた。

女性の腕とはいえ、シュノさんは『青薔薇連合会』の幹部。パンチの威力も並ではない。

骨と骨がぶつかる音がして、ルーチェスの唇が切れ、廊下に血の雫が散った。

しかし、ルーチェスはまるで動じていなかった。

「…気が済みました?」

「あなたがそんな…冷たい人だとは思わなかった!どうしてそんな風に言えるのよ…!」

「組織にせよ国にせよ、自分の身に突然何かが起きたとき、困ることがないよう常に対策を講じておくのは、上に立つ者の責務です。『もしものときのことなんて考えたくないから』で済ませて良い問題ではありません」

ルーチェスが言うと、言葉の重みが違うな。

元ベルガモット王家の皇太子で、ともすれば王位を継ぐかもしれなかった立場の者が言うと。

俺も、これでもウィスタリア家の次男で、家督を継ぐことになったときの為に最低限の「準備」はさせられた。

俺は上に姉兄がいたから、それほど熱心ではなかったが。

ルーチェスはベルガモット王家の皇太子であり、そしてあの姉弟で唯一の男子だった。

その肩にのしかかる重みは、俺とは比較にならなかったことだろう。

…シュノさんだって、本当は分かっているはずなのだ。

「あなたにはっ…あなたには分からないのよ。何の苦労もせずに幹部になって、それにまだ日が浅いんだもの。アシュトーリアさんがいなくなったって、悲しくも何ともないんでしょう!」

怒りと悲しみに任せて、シュノさんは涙ながらにそう叫んだ。

おっと。これは良くないですよ。

あまりに狼狽して、思ってもないことが口に出ているようだ。