The previous night of the world revolution7~P.D.~

びっくりした。

病院で大声をあげて、ノックもなしに病室に入ってくる奴があるか。

「この馬鹿アリューシャ。もっと静かに喋れ」

いくら個室とはいえ、そんな大声を出したら廊下にも、隣の部屋にも聞こえるだろうが。

病院では静かにしなさいって、アイズに習わなかったのか?

「だって病院ってさ、すげー辛気臭いじゃん?こんな辛気臭いところにいたら、治るもんも治らねーだろ?」

と、アリューシャは持論を語り始めた。

あ?

「だからここはカラ元気でも、明るく振る舞った方が早く傷が治るんじゃねぇか、ってアリューシャは思うんだよ」

「…成程…」

一理あるかもしれない。病院の非日常的な静謐とした雰囲気に、思わず気が滅入ってしまうことはある。

だったらカラ元気だとしても、大袈裟に明るく振る舞った方が…。

…って、アリューシャに騙されるな。

だからって大声出して良い訳じゃねーから。それとこれとは別だから。

「ってな訳で、アリューシャがお見舞いに来たぜ!」

「…あっそ…」

そりゃどうも。ようこそいらっしゃいましたね。

「傷の治りはどう?少しは良くなった?…やっぱりまだ痛い?」

心配そうな顔で尋ねてくるのは、同じくお見舞いに来てくれたシュノである。

つくづく、怪我をしたのが俺で良かったと思う。

これがもし、ベッドに横たわっているのがルレイアだったら。

今頃シュノは、こんなに落ち着いてはいられなかっただろうからな。

「だいぶ良くなってきたよ。…痛いのは痛いけどな」

「そっか…。…そうだよね、嫌なこと聞いてごめん」

「別に良いよ」

痛いけど、耐えられない痛みってほどではない。

さっきも言ったが、ルレイアが怪我をしたときに感じるであろう胃の痛みよりは、遥かに気が楽だから。

「あの、これお花…。持ってきたの」

そう言って、シュノは両手に抱えるほどの大きな花束を差し出した。

色とりどりの花が、甘く芳しい香りを立ち昇らせている。

「さっき買ってきたんだ」

「そうか。ありがとう」

素直に嬉しいよ。

ルレイアに「お世話」されるより、花束もらった方がずっと嬉しい。

…しかし。

「ルレイアもいるから、本当は黒い花束にしようかなと思ったんだけど」

「…え?」

な、何だそれ?

黒い花束?そんな花があるのか?

何で病室にルレイアがいるってだけで、真っ黒花束をチョイスしようと思ったのか。

確かにルレイアもいるけど、怪我したのは俺だぞ?

「アイズが、『病院で黒は縁起が悪いんじゃないかな』って言ったから」

アイズ、ナイスアドバイス。

お前が止めてくれなかったら、危うく真っ黒な花束を受け取るところだった。

変人揃いの『青薔薇連合会』幹部の中で、お前のような常識人の存在は、最早癒やしだな。

アイズがいてくれて良かった。

「やむを得ず、普通の花束にしたんだ。ごめんね、やっぱりつまらなかったよね…?」

何で俺が残念がってると思ってんの?

むしろ黒じゃなくて良かったと思ってるくらいだよ。

「いや、嬉しい。普通に嬉しいから」

「そっか…。ありがとうね、気を遣わせちゃって…」

別に俺、本当は黒が良かったなんて思ってないからな。

喜んでる振りをしてる訳でもないから。

黒じゃなくて良かったと、本気で思ってるからな。