「その…ずっと怖い顔してるから…」

「…」

でしょうね。

恐らく今俺は、今年一番不機嫌な顔をしていることだろう。

だって俺、今、今年一番不機嫌だから。

「ルレイア…。気持ちは分かるけど、少し落ち着こうか」

シュノさんは俺が怖いのか、恐る恐る話しかけるのが精一杯だったが。

アイズだけは恐れることなく、冷静に俺を宥めようとした。

あなたは度胸のある人ですよ。さすが『青薔薇連合会』次期首領。

「俺は落ち着いてますよ」

「だな。ルレ公とは思えないくらい落ち着いてんぞ」

と、真顔のアリューシャ。

でしょう?

「いつもなら、今頃帝国自警団絶対潰すマンになってるところだろ。何でルレ公、こんな大人しいの?」

帝国自警団絶対潰すマンか…。

…是非ともなりたいですね。

「それは…だって、さすがに帝国自警団という組織そのものを敵に回すのは、ルレイアの手に余るから…じゃないの?」

シュノさん。それはお人好しな解釈ですよ。

俺が今かろうじて平静を装っているのは、そんな優しい理由ではない。

すると。

「言われたんですよ、ここに運ばれてくるときに、ルルシーさんから。『帝国自警団を敵に回すな。くれぐれも大人しくしてろ』って」

俺の代わりに、ルーチェスが説明してくれた。

…そうなんだよ。

「『俺の為を思うならそうしてくれ』とまで言われてたんで。ルレイア師匠とて、愛する人の頼みを聞かない訳にはいきませんから」

「…えぇ、そういうことです」

つまるところ、ルルシーが「大人しくしてろ」と言ったから、頑張って大人しくしているだけだ。

ルルシーもよく分かっている。

釘を刺しておかなければ、俺が暴走機関車と化すことを。

だからこそ救急車の中で、痛みに呻く代わりに、俺を諌めたのだ。

そんなに必死になって止められて、それでもなお暴走する訳にはいかないじゃないですか。

ルルシーを愛するがこそ、彼の頼みを聞かない訳にはいかないじゃないですか。

これがルルシーの頼みじゃなかったら、今頃ブロテの生首は、胴体と泣き別れになっているところだ。

…よくも、俺のルルシーを…。

「そっか…。…賢明な判断だ。ルレイア、辛いとは思うけど…ルルシーの為にも頑張って堪らえて」

「…分かりましたよ」

「ルルシーの為」とは。アイズもズルいことを言う。

ルルシーをダシに使われたら、俺だって耳を貸さない訳にはいかない。

他でもないルルシーの為なら…。

正直、今すぐ鎌を持って帝国自警団の本部をズタズタにしてやりたい。

その衝動に駆られている。

それでも俺が必死に堪えているのは、全部ルルシーの為。

ルルシーが治療を終えて目を覚ましたとき、彼の隣にいる為だ。

そう思えばこそ、何とか衝動を抑えることが出来る。

「逃げた情報屋の居場所、そして『M.T.S社』のリーダーと幹部…。分からないことだらけだけど、一つずつ調べて対処していこう」

この場をまとめる為に、アイズがそう言った。

…それが分かるのはいつになるやら。

「それに、悪いことばかりではないよ」

あ?

「少なくとも、『M.T.S社』の新兵器の正体は分かったんだ。正体さえ分かれば、いくらでも対処法を考えることが出来る。これは不幸中の幸いだよ」

あぁ。そう言われればそうか。

ルルシーを傷つけてくれた、あの忌々しいレーザー銃。 

次目にしたら、粉々にしてやる。