…今何て言った?こいつ。

また俺の頭が痛くなりそうなことを言ってなかったか?

よし。何も聞こえなかったことにしよう。

俺はそっぽを向いて、手元のパソコンに向かい合い、キーボードを叩いた。

仕事を続行。

…したかったのだが。

「ねぇねぇ、ルルシー。ねぇねぇ」

ちょいちょい、と指で脇腹を突っついてくるルレイア。

…無視を続行。

「ねぇねぇルルシー、ルルシー。ねぇねぇ。ねぇねぇ」

「…」

…ガキか?お前は。

相手をしてくれるまでやるつもりか?それ。

無反応を続行。

「…ルルシーが無視する…。…あっ、そうだ。今のうちに、ルルシーのムチムチな太ももにお触り…」

「ちょ、やめろ馬鹿!何処触ろうとしてるんだ」

変態親父さながらの嫌らしい手付きで、あらぬところに触れられそうになり。

さしもの俺も、これ以上ルレイアを無視することは出来なかった。

それはズルいだろ、お前。

「ちっ…。惜しかった…」

惜しくねぇよ。何で残念そうなんだ。

危ないところだった。

あぁ…無視するつもりだったのに、こうして俺は毎回毎回、ルレイア達の茶番に付き合わされることになるんだな。

仕方がない。これが俺の宿命なのだ、きっと。

「…で?何だって?」

「お触りさせてください」

真顔で頼むな。

「その前だ、その前。何て言った?」

「執事喫茶に行きましょう、一緒に」

そのとき俺は、ルレイアが羊と言っているように聞こえた。

「…羊喫茶…?」

それは何だ。猫カフェの亜種みたいなもんか?

羊を眺めながらコーヒー飲みたい人間がいるのか?

まぁ、そういう変わった趣味の人もいるのかもしれない。

世の中には、爬虫類カフェという商業施設も存在するらしいからな。

爬虫類カフェがあるなら、羊カフェがあってもおかしくはないだろう。

羊ってまぁまぁデカいと思うんだけど、店舗の中に収まるんだろうか…?

…と、見当違いな疑問を抱いていると。

「ルルシー、何か勘違いしてません?」

ルレイアが首を捻ってそう聞いた。

…勘違い?

「え?だって…羊カフェだろ?羊を見ながらコーヒー飲む場所なんじゃないのか?」

ルレイアって、そんなに羊好きだったっけ?

長年一緒にいるけど、それは初めて知ったぞ。

しかし。

「もー、ルルシーったら違いますよ」

「え?」

「羊じゃなくて、執事です。し・つ・じ。仕える方の執事」

「あぁ…執事な」

そう言われて、ようやく俺の誤解が解けた。

羊じゃなくて、執事な。ごめん聞き間違いだ。

…ん?執事喫茶…?

俺の中に、今度は別の疑問が浮かんだ。