「検査して、何か出てきました?」

「いいや、肉体的な異常は何も見つけられなかったね」

ルーチェスの問いに、アイズが答えた。

この報告は、俺達も昨日の時点で聞いている。

病院から連絡があったからな。

徹底的に検査したけど、何処にも異常は見つけられなかった。

ただ眠っているだけで、健康体そのものだってな。

異常がなかったことには安心したが、それだけに何故ルーチェスが意識を失ったのか、謎は深まるばかりだった。

「そうですか。それなら大丈夫ですよ」

「大丈夫って…。大丈夫ではないだろ?昨日…何があったんだ?」

満を持して、ルルシーはそう尋ねた。

皆が知りたがっているだろう。

昨日、俺達とルーチェスが別行動している間、ルーチェスの身に何が起きたのか。

何故ルーチェスは意識を失っていたのか。それに…服の焦げた穴のことも気になる。

ここは是非、本人の口から聞いてみたい…ところだったが。

「いやぁ、実は僕、全然覚えてないんですよね」

けろっとして、ルーチェスはそう言った。

「…」

これにはルルシーもびっくり。

ルルシーのみならず、アリューシャやシュノさんもびっくりであった。

俺はと言うと、何となく察していたから驚きはしなかった。

そんなことだろうと思いました。

「だから、皆さんが何を心配してるのか、何で僕が病院に入れられてるのか、さっぱり分からないんですよ」

「い、いや…お前、それ…」

「今日は『M.T.S社』に、裏切り者の粛清に行く予定だったのでは?ここにいて良いんですか?」

「…それは昨日のことですよ、ルーチェス」

と、俺はルーチェスに教えてあげた。

やっぱり。

昨日一日分の記憶が、まるまる吹っ飛んでるんだ。

「昨日…昨日、僕何してました?」

「一緒に『M.T.S社』の襲撃任務についていましたよ。俺とルルシーとルーチェスの三人で」

「ほう。それで?」

「俺とルルシーの二人で、『M.T.S社』のリーダーを追い…。ルーチェスは一人別行動して、例の怪しい武器とやらを探しに武器庫の制圧に向かいました」

だから、別行動中のルーチェスの身に何が起きたのか、俺には知る由もない。

誰一人知る由もない。だって誰も見ていないから。

それを見ていたであろう『M.T.S社』の構成員は、まとめてルーチェスの両剣の錆にされてしまった。

真相は闇の中、という状態である。

これが探偵モノだったら、ここから謎解きパートが始まるところだが。

残念ながらこれは現実なので、都合良く謎を解いてくれる名探偵はいない。

残念だな。

あるいは、俺達は知らなくても良いことなのかもしれない。

「リーダーを取り逃してしまったので、ルーチェスの援護をしにルルシーと共に武器庫に向かうと…そこにあなたがいたんですよ、ルーチェス」

「僕、何やってました?」

「床に倒れて、寝てました」

「…」

ルーチェスは真顔で、両腕を組んで神妙に言った。

「…敵本陣のど真ん中で昼寝するとは、僕って実は結構大物なのでは…?」

非常にポジティブな解釈である。

が、言われてみれば確かにその通りだな。