The previous night of the world revolution7~P.D.~

…『青薔薇連合会』じゃない、だと?

「何?ルレイアじゃないのか?」

浮き輪に空気を入れるのをやめて、くるりと振り返るオルタンス。

いい加減お前は、その浮き輪をしまえ。

しかもよく見たら、ピンクの音符模様の浮き輪なんだが?

良い歳したおっさんが、なんつー浮き輪を買ってきたんだ。

お前はそれを人前で使うことに、何の躊躇いもないのか?

「は、はい…」

報告係が頷いた。

『青薔薇連合会』じゃない…。

じゃあ、誰だ?

『青薔薇連合会』以外に、一体誰がこの王宮に…。

「『青薔薇連合会』じゃないなら、誰が…」

「それは私達だよ。…帝国騎士の皆さん」

報告係の、後ろから。

フェンシングで使うような、細いレイピアを手にした女が入ってきた。

…こいつが、侵入者…?

…誰だ?

見たことのない顔だった。

「…ルレイアじゃなかった…」

しょぼーん、と浮き輪を手に落ち込むオルタンス。

おい。今はそれどころじゃないだろ。

この女が、王宮の警備を物ともせず、ここまでやって来たというのか?

…しかも、この女は一人ではなかった。

「…邪魔するわね」

後ろから、数名の「お仲間」を引き連れてきた。

いずれも、それなりの手練のようだった。見れば分かる。

成程、これなら一般の帝国騎士くらいは、あっさりと蹴散らせるだろう。

とはいえ、これほどあっさり倒されたのでは…帝国騎士団の名が泣くな。

ルレイアの鎌で、一振りで吹き飛ばされなかっただけマシだと思おう。

…それで?

「何の用だ、お前ら」

俺は、テーブルに肘をついて尋ねた。

同じテーブルにつく隊長達も、一瞬でぴりぴりとした空気を纏っていた。

俺達の平和だった日常を、こうもあっさり撃ち破ってくれたのは誰だ?

何の用があって、ここに来た?

少なくとも、友好の印を示しに来てくれた訳じゃないのは確かなようだな。

すると。

「私達は戦いに来た訳じゃない。話をしに来たんだ」

と、レイピア女が言った。

ほう、それはそれは。

その割には、ここに来るまでに何人もの帝国騎士をぶっ倒してきたようだが。

するとレイピア女は、俺の考えを読んだようにこう言った。

「心配要らない。私達は誰も殺してはいないから」

「…」

…そうか。

昏倒させただけだと?

殺すより、意識を奪うだけの方が余程労力を使う。

つまりこの女達は、一般の帝国騎士を手加減して倒して進んでこられるほどの実力を持っている、ってことだ。

『青薔薇連合会』も相当だが、こいつらも負けないくらい厄介な相手のようだな。

ますます、俺達の平和な日常が遠ざかる。

帝国騎士団の隊長である限り、もとより平和とは程遠いけどな。