The previous night of the world revolution7~P.D.~

まーた始まったよ。

近頃呪文のように、こんなことばっかり唱えている。

「ケーキバイキングに行きたい」のときもあったし、「カラオケに行きたい」のときもあった。

あとは…「旅行に行きたい」とか、「『frontier』のライブに行きたい」とか。

『frontier』って知ってるか。オルタンスがお熱になってるアイドルだよ。

ボーカル?とやらがルレイアに似てるから、好きなんだってさ。

部屋にポスター貼ってるからな。直筆サイン入りの超デカい奴。

帝国騎士団の団長ともあろう者が、自分の部屋にアイドルのポスターを飾るな。

しかし、オルタンスは全く気にしない。

「海に行きたい」

オウムのように、こう繰り返すばかり。

あちこち色々なところに行きたい、と抜かすオルタンスだが、これには毎回条件がつく。

そう、「ルレイアと一緒に」という条件が。

行きたいなら勝手に行けよ、と思うが、ルレイアと一緒に…となると、そうはいかない。

オルタンスがいくら我儘を言おうと、ルレイアが承諾して、一緒に来てくれなければ意味がない。

こいつの場合、何処に行きたいって言うより…ルレイアと出かけたいんだろうな。

出かける先なんて、別に何処でも良いんだよ。

しかし、あのルレイアが、オルタンスの我儘に付き合ってくれるはずもなく(当たり前)。

オルタンスはこうして、虚しく自分の願望を口にするばかりなのだった。

まぁ、言うだけならタダだけどさ。

毎回毎回、そんな生産性のない我儘を聞かされる、俺達の身になってくれ。

俺もリーヴァもルーシッドも、「あぁ、また始まった…」みたいな顔をしていた。

「ルレイアと海に行きたい」

「…勝手にしろよ…」

「そしてルレイアの水着姿を拝みたい」

…気色悪っ…。

これが帝国騎士団団長の台詞か?

と思ったが、帝国騎士団副団長であり、ルレイアの実の姉であるルシェも。

オルタンスに同意せんばかりに、まんざらでもない顔をしていて。

帝国騎士団の未来が心配だよ、俺は。

まぁ、ルーシッドみたいなしっかりした若者がいるなら、大丈夫だとは思うが…。

「ルレイアは何を着ても似合うからな。水着姿になっても、きっと似合うに違いない」

「…あっそ…」

「だから、ルレイアと海に行きたい」

無理だと思うぞ。

あのルレイアが、お前の我儘に付き合うはずがない。

「…この際、プールでも良い」

ちょっと妥協してんじゃねぇよ。

海だろうがプールだろうが、ルレイアは断るに決まってる。

オルタンスの話なんて、まともに聞いてもくれないんじゃないか。

以前、一回…ハムスターランドだっけ?テーマパークに付き合ってくれたんだから、その思い出で満足しておけ。

「諦めろ。そして、馬鹿なこと言ってないでさっさと会議を始めるぞ」

「やっぱり無理だと思うか?」

「当たり前だろ」

「そうか…。…よし、それなら仕方ない」

お?

今日は珍しく、あっさり諦め…、

「ルーシッド。頼みがある」

オルタンスは至極真面目な顔で、ルーシッドに向き直った。

「は、はい?」

「ルレイアのような服を着て、ルレイアのような化粧をして、ルレイアの代わりに海に付き合ってくれ」

「…!?」

帝国騎士団長、ご乱心。

お前は、それで満足なのかよ。

そして、ルーシッドを巻き込むなと何度言ったら分かる。