――――――…帝国自警団で、どっかの誰かが並々ならぬ憎しみを抱いているとも知らず。

俺はおよそ一ヶ月ぶりに、『青薔薇連合会』に帰還した。

「こんにちはー。ルレイアが華々しく凱旋しましたよー」

皆を驚かせようと思って、俺は特に予告なく戻ってきた。

すると。

「あっ…!ルレイアさん…!」

「良かった。戻ってきたんですね…!」

エントランスにいた部下達が、俺の姿を見て喜びの声をあげた。

いやぁ人気者は辛い。

「早速ですが、ルルシーいます?他の幹部組は?」

「ルルシーさんは任務で出掛けています。他の幹部の方は…」

と、部下が言いかけたそのとき。

「あっ…!ルレイア…!」

お?この声は。

振り向くと、そこにいたのは。

「おっと。シュノさんじゃないですか」

シュノさんは硬直して、立ち止まってぶるぶる震えていた。

手に持っていた書類の束が、バサッ、と床に落下。

しかし、シュノさんはそんなことにも気づいていないご様子。

おいおい。大丈夫ですか。

「る、ルレイアなの…?」

「えぇ、ルレイアですよ」

「か、帰ってきたの…?」

「帰ってきましたよ」

俺は笑顔で、両腕を広げてみせた。

「るっ、ルレイア…。ルレイア〜っ!!」

ぶわっ、と涙を浮かべたシュノさんが、俺の両腕の中に飛び込んできた。

「…うぇぇぇん、ルレイア、ルレイアっ…。良かった、良かったよぅ…」

「ご心配お掛けしましたね、シュノさん」

えぐえぐと泣くシュノさんの頭を、俺はポンポンと撫でてあげた。

部下の前では常に凛々しいシュノさんも、今ばかりは型無しである。

涙で美人が台無しだが、それも俺のことを心配してくれていたからこそだと思うと、感慨もひとしおというものだ。

「け、け、怪我は?怪我はしてないの?」

「してないですよ。無傷です」

「何処も痛くないのね?乱暴なことはされなかった?」

「えぇ。お客様待遇でした」

殴られもしなかったし、鎖で繋がれもしなかったよ。

まぁ、そんなことしたら人権侵害でブロテを訴えてやるつもりだったが。

「よかっ…。良かったぁぁぁ、ルレイアぁぁぁ」

「あらあら…」

再度涙を浮かべて、俺にしがみついてくるシュノさんである。

また泣かせちゃいましたね。

女性を啼かせるのは俺の趣味だが、泣かせるのは本意ではないのだが?

すると、そこに。

「こっちだアイ公!シュー公が泣いてる声がする!」

「本当だ。それは大変だね」

「待ってろシュー公!シュー公を泣かす輩は、アリューシャが脳天貫いっ…て…」

「おっと。これは…」

アリューシャとアイズの二人が、本部エントランスにご到着。

俺の姿を認めて、二人共一瞬時が止まっていた。

「どうも。ただいま帰還しました」

シュノさんの頭を撫でながら、俺は二人にも挨拶をした。

すると。

「おかえり。無事で良かったよ」

アイズはさすがの貫禄を見せ、すぐに状況を理解して、笑顔でそう言った。

シュノさんが大号泣している理由も、これで分かってくれましたかね。