…しかし。

それも、無理もないと言えるのかもしれない。

相手が騙されていることに気づかないよう、巧妙に嘘を付く。

ルレイア・ティシェリーの常套手段。

俺だって、実際に騙されるまで気が付かなかった。

疑うこともなかった。

あの笑顔の仮面の下で、あいつが何を考えていたかなんて…気づきもしなかった。

盛大に裏切られてから初めて、ルレイア・ティシェリーの卑劣さに気がついたのだ。

ブロテ団長もそうなのだろう。

残酷なようだが、人間は痛みを経験しなければ分からないこともある。

ブロテ団長も俺のように…。

…いや、俺達のように。

ルレイア・ティシェリーに裏切られて初めて、真実に気づくのだろう。

あの男は、同情の余地もない最低最悪の極悪人であると。

今すぐにでも捕らえて死刑にすることが、ルティス帝国にとって最善であると。

「…その様子だと…やっぱり駄目だった?」

現状、俺の唯一の理解者。

俺と共に帝国自警団に入団した「彼女」が、落胆した様子で聞いてきた。

…残念ながら。

「あぁ。ブロテ団長は、差し迫った『青薔薇連合会』の脅威は去ったと考えていた」

全く甘い話だ。

このルティス帝国に、『青薔薇連合会』などという非合法組織が存在している。

ただそれだけで、差し迫った脅威以外の何物でもないというのに。

何故それが分からないのか。

人を騙し、傷つけ、殺すことを何とも思わない連中だというのに。