「悪いが、説得には応じられない。あの子の好きなようにさせてやってくれ」

「…諦めるのですね?彼のことを…」

「まさか」

ルレイアが望んでいなくても、私は今でもあの子の身を案じている。

それは諦めるとか諦めないとか、そういう次元の話ではない。

あの子は既に、私のもとにはいない。自分の道を見つけ、巣立っていったのだ。

そして。

最初にあの子を信じることを諦めたのは、私だ。

私が先に諦めたのだ。ルレイアを。

今更「諦めるのか」などと聞かれても、答えに窮する。

その質問は、ルレイアを見捨てることを決めた、愚かな過去の私に言ってやって欲しい。

「私はルレイアの幸福を願っているだけだ。そこが『青薔薇連合会』も、帝国騎士団でも、帝国自警団でも…何処でも構わない」

「…そうですか。…残念です」

悪いな。

ブロテには申し訳ないが、私の決意は揺らがない。

「ルレイアを言葉で説得しようとしても、無駄だと思うぞ」

これ以上ブロテが無駄足を踏まずに済むよう、私はそう言った。

余計なお世話だろうがな。

「…何故です?」

何故…か。

「あの子の闇は、私達が思っている以上に深く、底知れないということだ」

ルレイアは今…どれほど手を伸ばしても届かないほど、暗い闇の中にいるのだから。

我々の言葉など、全く届かない場所に。