部屋の中は、とても静かだった。

時折、外から車の往来の音がしていたけれど。それだけ。

人の話し声も聞こえなかった。

窓があったので、試しに開けてみようと思ったら。

ほんの数センチ開いただけで、押しても引いても動かなかった。

成程。脱走防止か。

一応こういうところは、牢屋の役目を果たしているらしい。

それとも、すぐに逃げ出す狂犬だとでも思ったか?俺のことを。

それは酷い誤解だ。

俺ほど大人しくて、分別のある大人はそうそういませんよ。

「…さて」

窓が開かないくらい、何ということもない。

俺はポットのお湯をティーカップに入れ、そこにティーバッグを浸した。

ゆっくり紅茶でも飲みましょう。ティーバッグだけど。

焦っても良くないですしね。まずは一息つこうじゃないか。

「…ふー…」

ソファにゆったりと座って、紅茶を啜った。
 
テーブルの上には、ご丁寧にも茶菓子のお皿が置いてあった。

気が利くじゃないですか。

敵が提供してきた食べ物を、不用意に口にして大丈夫なのか…と思われるかもしれないが。

いちいちそんなことまで考えてたら面倒臭いから、考えないでおこうと思って。

いずれにしても、ここに一週間…最悪一ヶ月もいることになるなら、飲まず食わずって訳にはいかないし。

ここはシェルドニア王国じゃないですからね。

飲食物に洗脳薬が含まれている…ということはないだろう。

テレビをつけると、馬鹿馬鹿しいバラエティ番組を放送していた。

テレビ画面をぼんやり眺めながら、俺は一人で紅茶を啜った。

お茶菓子の小袋を開け、もぐもぐ食べてみた。

よく見たら、新聞を始め、雑誌が何冊か本棚の中に入れてあった。

その中から雑誌を一冊取って、ぱらぱら捲ってみる。

…何だか、凄くまったり過ごしている気がする。

ちょっと眠くなってきましたよ。アリューシャじゃないけど。

ここにいたら、仕事をする必要もないもんな。

スマホもないから、電話がかかってくることもないし。

…あれ?意外と好待遇…?

ルルシー達に会えないこと以外は、完璧だな。

もし一ヶ月閉じ込められていたとしても、意外と快適に過ごせるかもしれない…と。

…思っていた、そのとき。

監禁部屋の扉が、コンコンとノックされた。

おっと。早速お客様のようだ。