…。

…ユナとセルニアが、煮えきらない顔をしていた理由がよく分かった。

誰だってそんな反応になるよ。これを知ったら…。

…あんなに知りたいと思っていたのに。

報告書を読んだ今は、知らなければ良かったかもしれないと思えた。

それほどまでに…「これ」は…酷かった。

私の前にある、分厚い報告書の束。

何に関する報告書か、って?

…決まってる。

私達の悩みの種…あの男…ルレイア・ティシェリーに関する調査報告書だ。

帝国自警団の持つ、あらゆる権限を駆使して調べてもらった。

ルレイア・ティシェリーが何者で、どのような経緯があって『青薔薇連合会』に入ったのか。

あの男が、何故あれほど歪んだ性格の持ち主になったのか。

ルレイアのバックボーンを知れば、彼の弱みを握ることが出来るかもしれない。

そう思って私は、時間をかけてルレイア・ティシェリーの過去を調べてもらった。

…だけど。

…知らなければ良かった。こんなことは。

「…」

私は黙って、報告書を机に置いた。

…人間は。

人間というのは…大義の為に、ここまで悪辣になれるんだね。

「…私達は、ルレイア・ティシェリーを誤解していたのかもしれない」

「…そうだね。こんなものを読まされたら…」

その気持ちはよく分かる。

ついさっきまで、ルレイアを酷い男だと思って憎んでいたけど。

今は不思議なほどに、その憎しみが消えていた。

そう、憎んではいけない。

私が彼に抱くべき感情は、憎しみではないのだ。

もっと早くに気づくべきだった。

生まれつきの悪人なんていない。

人を悪にするのも善にするのも、全てはその人を取り巻く環境に原因があるのだ。

そして彼の場合…その環境が最悪だった。

本当に…凄惨とも言えるほどに、最悪で…。

…そのせいで彼は…ルレイア・ティシェリーは、闇に堕ちてしまったのだ。

ならば…私のやるべきことは何か?

「…決めた」

「え?」

私のやるべきことが何か。

帝国自警団のリーダーとして、何をすべきか。ようやく分かった。
 
ならば、あとは行動するのみだ。

「私、ルレイア・ティシェリーと話してくる」

闇に目が眩んだ彼に、教えてあげるのだ。

世の中は、世界というものは…君が思ってるほど醜いものではないということを。