The previous night of the world revolution7~P.D.~

楽屋には、『frontier』の5人が揃っていた。

そして、案の定…俺の予想通りの光景が広がっていた。

「はーっ、はーっ…」

「…」

「ひーっ、ひーっ…。ふー…」

「…」

「ひーっ…ふーっ…」

…出産中ですか?

済みませんね。お邪魔して。

「ルトリアさんは相変わらずのようですね」

「あっ…。あなたは…」

ルクシーさん達が俺を見て、ハッとした。

ベーシュさんだけは、顔色を変えずにぽやんとしていたけど。

勿論彼らも、俺が何者であるかを知っている。

『frontier』が所属する事務所、『R&B』のスポンサーであると。

さすがに、俺がマフィアの幹部であることまでは知らせていないが…。

彼らのことだから、薄々気づいているのかもしれない。

「本番はもうすぐですけど。大丈夫そうですか?」

「どうでしょう…。今朝からこんな調子で…」

「今朝からじゃなくて、昨日からやばかったろ?」

まぁ、そうですね。

昨日、夏フェス二日目の夜、ルトリアさんはTwittersを更新していたけど。

『明日は夏ふぇ採集日(·ε·`)皆さん着てくだsueい(·ε·`)』だった。

所々字は間違えてるし、その口は何だ。

本番前のルトリアさんは、大体いつもこんな感じだから…大して気に留めてないけど。

「ルトリア、大丈夫か。しっかりしろ。スポンサーさんが来たぞ」

「ひーっ、ふー…。ひふーっ!」

「何だ、その呼吸は?」

ラマーズ法さえ危うくなってません?

これはまた、いつにも増して重症ですね。

「大丈夫、ルトリア?お腹にパンチする…?」

心配そうな顔で尋ねるベーシュさん。

それで正気に戻るんだから、凄いですよね。

壊れたテレビは、叩けば直る理論。

「いや、さすがに本番前だからそれは…最終手段にしておきたい」

「ルトリア、しっかりしろ。スポンサーさんが来たぞ」

「…ひふっ?」

ルトリアさんが、ぽかんとして顔を上げた。

目の前に俺がいるのを見て、そのまま十数秒見つめ合う。

…すると。

「…あっ、どうも。来てくださったんですね」

先程までラマーズ法を繰り返したとは思えない、流暢な口調で。

至って普通に喋り出した。

…正気に戻った?

いや、そういう訳ではないことを、俺は知っている。

俺のみならず、『frontier』のメンバーは既に承知のことだろう。

「えぇ。どうですか調子は?」

「お陰様で」

「励ましに来たんですよ。頑張ってくださいね、本番。最前列で見てますから」

「ありがとうございます。精一杯、やってみせます」

それは良かった。

「じゃ、頼みましたよ。素敵なステージを期待しています」

「はい。任せてください」

よし。大丈夫そうだな。

本番前に、あんまり邪魔しても悪いし。

「そろそろ行きましょうか、ルルシー」

「え?あぁ…分かった」

ルルシーは首を傾げていたので、多分分かってないんだろうな。

見た目じゃ分からないのも、無理はないか。

俺はルルシーを連れて、『frontier』の楽屋を後にした。