…しかし。

「シェルドニア王国…?」

何故その国の名前が出てくるのか、と言わんばかりに、営業の男は首を傾げた。

おっと、お前は知らなかったか。

ってことは、今回の新兵器は…例の噂とは無関係なんだな。

それは失礼。

「いや、気にしないで進めてくれ」

「…そうですか。では、こちらを…」

更に、新兵器に関する情報が書かれた書面を受け取った。

それを一読して、俺は思わず目玉が飛び出そうになるのを堪えなければならなかった。

シェルドニア王国から伝わった新兵器、もなかなかインパクトがあるが。

こちらも、負けず劣らずの曲者だった。

だから、こんな話には関わりたくないと思っていたんだ。

案の定…ろくなものじゃなかった。

あぁ、やっぱり今日、ここに足を運ぶべきじゃなかった。

今更言っても、後の祭りだけどな。

「…如何ですか?」

「…」

それは、どういう意味の「如何」なんだ?

ご自慢の新兵器の感想を聞いてるのか。

それとも、この新兵器を取り扱ってくれる気はあるのか、と聞いているのか。

「…随分『悪趣味』なものを造り出したもんだな」

誰だ?発案者は。

どういう意図でこんなものを造ったのか、是非とも話を聞いてみたいくらいだ。

悩みでも抱えてんじゃねぇの?

「それは、褒め言葉と受け取って宜しいですか?」

皮肉だよ、馬鹿。

…まぁ良い。

「御大層なものを造ってくれて結構だが…俺はこんなもので商売するつもりはない」

「…」

書類を机に放り出して、俺がきっぱりと断ると。

営業の男は、初めて顔を曇らせた。

断られるとは思ってなかったか?…それは悪かったな。

「…信用なりませんか?武器の『効果』を実際に目にして頂ければ、そのような疑念は…」

「そういう問題じゃない。何を見せられたとしても、俺はお宅らとの商売なんて御免だ」

じゃあ何で今日ここに来たのか、と疑問に思うかもしれないが。

それは『青薔薇連合会』の顔立てであり、それ以外に理由はない。

そうでもなきゃ、連絡してきた時点でぶっ千切ってるさ。

「あんたらが信用出来ないとか、このご自慢の武器が信用出来ないとか、そういう理由じゃねぇ。俺が今日ここに来たのは、『青薔薇連合会』に義理を立てる為だ」

「…何故です?この取引に応じれば
あなた方にとっても大きなビジネスチャンスだと思いますが」

「そうだとしても、俺は他人の上手い話には乗らない」

上手い話というのは、自分が相手に持ちかけるものであって。

他人から持ちかけられるものではない。

俺がこれまで、長くこの商売をしてこられたのは、この主義信条のお陰と言っても過言ではない。

自分の目で見て、これなら大丈夫だと確信した話でなきゃ、俺は乗らない。

どんなに上手い話に思えても、そういう上手い話にこそ、裏があるのだ。

『M.T.S社』が何を企んでいようと、何も企んでいまいと…。

いずれにしてもこいつらは、自分達の上司である『青薔薇連合会』に内密に、俺に声をかけているのだ。

俺達としては、『M.T.S社』より遥かに
付き合いの長い上得意様である『青薔薇連合会』を、裏切るような真似はしたくない。

『オプスキュリテ』の信用に関わる。

『青薔薇連合会』の内輪揉めに、巻き込まれるのは御免だ。絶対ろくなことにならないに決まってるからな。