The previous night of the world revolution7~P.D.~

帝国騎士団と帝国自警団の間には、互いの中立性を保つ為、互いに不干渉と不可侵の原則がある。

帝国騎士団は帝国自警団のやることなすことに、口も出さないし手も出さない。

少なくとも、求められない限りは何の意見もしない。

奴らが『青薔薇連合会』に何をしようと、それは自警団の勝手だ。

好きにすれば良い。帝国騎士団には関係ない。

逆に言えば、帝国自警団もまた、帝国騎士団のやることなすことに口を出す権利はないってことだ。

お互いがお互いに何をしていようと、知ったことじゃない。

アストラエアの言う通り、関係のない話だ。

…『青薔薇連合会』としても、俺達に口を挟まれたくないだろうしな。

「小うるさい自警団を諌めてくれ」と頼ってくるような可愛げはない。

従って、俺達は黙って『青薔薇連合会』と帝国自警団の動向を見守っているだけで良い…。

…とは思うが。

「…だからって、遊び呆けて良い訳じゃないんだぞ」

「…」

「おい、お前に言ってるんだぞオルタンス」

「ん?」

自分は関係ないみたいな顔をするな。お前のことだぞ。

「…どうかしたか?」

それはこっちの台詞だ。

「お前が何をしてるんだよ。それは何だ」

「これか?これは推し活の一環だ」

…またよく分からん言葉が出てきた。

…おしかつ…?

意味は知らんが、多分知らなくても一生生きていけそうな気がする。

何故ならオルタンスの手元には、キラキラしたシールやスタンプをぺたぺた押しまくった、やたら豪華なうちわや。

同じデザインの缶バッジが山程くっついた、透明なバッグなどが置いてあった。

あれは自分で作ったのだろうか。

仕事を真面目にやっている以上、お前が執務室にこもって何を作っていようと、それはお前の勝手だけどさ。

何故、それをわざわざ会議室に持ってくる?

見せたいのか?見せびらかしたかったのか?

「何個あるんだ、その缶バッジ。一つで良いだろ」

「それは違うぞアドルファス。こうして同じ推しの缶バッジを大量につけることによって、推しへの愛を現しているんだ」

大量にくっつけたら、愛を現したことになるのか。

安い愛だな。

「そしてこの缶バッジは、今回の夏フェス限定なんだ」

…夏フェス…?

「会場でもグッズ販売はしているが、『frontier』のグッズはいつも何処でも、売り切れ必至だからな。今回はインターネットサイトの事前販売から参戦し、無事推しグッズを確保させてもらった」

「…」

「ファンクラブメンバー会員限定とはいえ、オンラインでグッズを前売り販売してくれたルレイアには、心から感謝しないとな。そうでもしなければ、推しグッズを揃えることは出来なかった」

「…」

「…はぁ、尊い」

「…」

…全然分かんないんだけどさ。

知りたくもないんだけどさ。

オルタンスお気に入りの…『frontier』とかいうアーティストのボーカル。ルトリアだっけ?

そいつの顔写真がプリントされた、大量の缶バッジを恍惚として眺めている、オルタンスを見たら。

俺達の悩みなんて、本当どうでも良くなるよな。

そりゃ自警団の奴らも、帝国騎士団の…って言うか。

帝国騎士団長のあまりの能天気っぷりに、危機感を覚えるのも当然ってもんだ。