『青薔薇連合会』は、言うまでもなく俺達『オプスキュリテ』にとって、大事なお得意様だ。

反旗を翻そうとしている彼らの部下を見て、黙っているのは気が引けるが…。

だからって、告げ口することが正義かと聞かれれば、そんなことはない。

「ジュリスさん。この話、『青薔薇連合会』には…」

「心配するな。何も言わねぇよ」

取引するつもりがあろうともなかろうとも、『M.T.S社』も商売相手の一人だ。

顧客の個人情報は、例え上得意様の『青薔薇連合会』と言えども、漏らす訳にはいかない。

『オプスキュリテ』の信用にも関わる問題だからな。

『M.T.S社』がお上に逆らいたいなら、勝手にすれば良い。

それは『青薔薇連合会』と『M.T.S社』の問題だ。

俺には関係ない。

まぁ、関係ないとはいえ、こうして既に『M.T.S社』の反意を知ってしまった以上。

完全に無関係…という訳にはいかなくなってしまったけどな。

難儀な内輪揉めだ。

これだから、関わり合いになりたくなかったんだ。

『青薔薇連合会』の内輪揉めなんて、聞いただけで逃げ出したくなるような話だ。

「それは良かった。あなた方なら、安心して取引が出来ます」

「それで?お前達ご自慢の、新兵器とやらは?何なんだ?」

「えぇ。まずはこちらを…」

営業の男は、バッグの中から書類を一枚、取り出した。

そこに、歪な形をした図面が描いてあった。

…これが…?

「何だ、これは…。書類だけかよ。…現物は?」

「現物を見せることは出来ません」

商品も見せずに、「これを売ってください」と頼んでるのか?

舐められた話だな。

「見せてももらえないんじゃ、話にならねぇよ」

「今回の契約にサインしてもらえるなら、現物をお見せしますよ」

アホ抜かせ。順序が逆だろ。

…まぁ良い。

「…で、これが何だって?まさかこれが…例の、シェルドニア王国から伝わってきた武器、って奴か?」

昨今、ルティス帝国裏社会の武器商人の間で、噂になっている話がある。

どうもこのルティス帝国で、シェルドニア王国から伝わってきた画期的な新兵器の開発が進められていたと。

あまりに「特殊」な武器だった為、帝国騎士団と『青薔薇連合会』が結託して、その兵器の開発を止めたとか何とか…。

どれも確証を得ない、単なる噂だ。

「あの噂は本当なのか」なんて、『青薔薇連合会』に直接尋ねる訳にもいかないしな。

つーか、聞いたところで答えないだろうし。

真実は闇の中、って奴だ。

だが、こうして秘密裏に新兵器の情報を持ちかけてくるってことは…。

例の噂になっている武器を、『M.T.S社』が開発したのだろうか。

何なんだろうな、シェルドニア王国から伝わってきた新兵器って。

わざわざ帝国騎士団が出張ってきてまで、開発を中止させるくらいだ。

絶対にろくでもない兵器だろう。

他人を意のままに扱う兵器…とか?

もしそうだとしたら、開発を中止させて正解だったな。

まぁさすがに、そんな非現実的な武器は存在しないと思うが…。