―トーマス王太子殿下・応接室―

 スポロンに連れられて、マリリン王妃の侍女トリビア・カルローがやってきた。その顔立ちにローザはある人物の顔を思い出していた。

 事前に渡されたトリビアの履歴書。
 父の名はゴードン・カルロー。
 母の名はマリア・カルロー。

「ローザさん、私に何か御用でしょうか?」

「あなたの母親の名前を拝見し、その顔立ちを見て、ハッキリ思い出しました。あなたの母親はサファイア公爵家のメイドだったマリア・アメジストさんですね。その若さであなたが何故異例の大出世をしマリリン王妃の侍女に抜擢されたのか、ずっと不思議でしたが、あなたの母親とマリリン王妃はサファイア公爵家で一緒に働いていたメイドであり親友だったからです」

「……確かに、母は元サファイア公爵家のメイドをしておりました。その由縁もありマリリン王妃にはとても可愛がっていただきました」

「それだけではないでしょう。あなたは公立パープルワンハイスクールの卒業生。ポール・キャンデラを知ってますね」

「さあ……? 学年も違いますし、私はポール・キャンデラという人は知りません」

「私は学年が違うとは一言も言ってませんよ。どうして学年が違うとわかったのですか?」

「……それは」

 トリビアはローザに突っ込まれどきまぎしている。

「トリビアさんとポールは同じハイスクールでした。ポール・キャンデラはあなたより年下ですが、ポールの母親もサファイア公爵家の元シェフだったことで話が合ったのではありませんか? そしてあなたがポールを使用人宿舎の裏門からの侵入を導いた。それはマリリン王妃の命令ですか?」

 ローザの推測にトリビアは狼狽している。

「それは断じて違います。マリリン王妃はとてもいい方です。マリリン王妃は何もご存知ありません」

「ではポールの侵入に手を貸したことは認めるのですね」

「でも……まさか彼が鶏を殺害するとは思ってもいませんでした。メイサ妃がトーマス王太子殿下にお届けになった鶏を見てみたいと言ったので、警備員が仮眠している隙に裏門から招き入れました。彼とはハイスクールの『王室研究部』の部活動で知り合い、彼は大変熱心だったので、時々王宮内の情報を話していただけです」

「王妃の侍女として、王宮の内部情報を漏洩することは罪になるとは思わなかったのですか? あなたは重罪を犯したのですよ。ポールの母親はサファイア公爵家を去る時、妊娠していました。父親が誰か聞いていますか?」

「……それは知りません。母子家庭で苦労したということしか聞いていません」

「ポールの父親は同じサファイア公爵家の元シェフだったアリトラ・ジルコニアではありませんか?」

 ローザは自分のカンだけを信じ、ポールの父親がアリトラ・ジルコニアだと告げると、スポロンの顔から血の気が引いた。

「ローザさん、ちょっと待って下さい。そのポール・キャンデラがトーマス王子誘拐事件の犯人の一人だったアリトラ・ジルコニアだったというのですか!」

「はい。アリトラは複数の女性と問題を起こしていましたから。トリビアさん、あなたはポールと交際しているのでしょう。これ以上隠すとあなたも共謀罪になりますよ」

「共謀罪!? 私はただあの日、裏門からポールを入れただけです。トーマス王子の誘拐事件なんて知りません。アリトラなんて男性も知りません。ただ……」

「ただ? 何ですか?」

「ポールは父親は事件に巻き込まれて、メイサ妃に無実の罪で殺されたと言っていました。メイサ妃の邸宅を執拗に知りたがっていました。トーマス王太子殿下とメイドのルリアンさんは親しい様子でしたし、国王陛下やマリリン王妃に内緒で外出されたことがあったため、『ルリアンさんならメイサ妃の邸宅を知っているかもしれない』と、ポールに話したことはあります。でも、それはトーマス王太子殿下の御生母様の邸宅を見たいだけだと思っていました」

「わかりました。正直に話してくれてありがとう。あなたの処分は国王陛下に一任します。スポロン、トルマリンに直ぐに宿舎の地下駐車場で待機するように伝えなさい。ポールは実父を死亡させたのはメイサ妃であると誤解しています。ルリアンさんにメイサ妃の邸宅に案内させるつもりです。それとレッドローズ王国の警察に電話してブラックオパール邸に大至急向かわせるよう要請して下さい」

「な、なんと!! 直ぐに連絡します! これは地下駐車場の車のキーです」

 ローザはスポロンより車のキーを受け取り、トーマス王太子殿下に視線を向けた。

「トーマス王太子殿下、私は直ぐさまレッドローズ王国のブラックオパール邸に向かいます。トーマス王太子殿下はどうなさいますか」

「ルリアンが浚われたんだ! 行くに決まってるだろう!」

 ローザはその言葉を聞き、ニヤリと口角を引き上げた。