桃の言葉に翠は大きくため息を吐く。桃の手を振り払い、翠は俯きがちに駅へと歩き出す。慌てて桃が「待ってよ!」と言いながら追いかけて来た。

「まだお店一軒も見てないじゃん。見るだけでもいいからさ」

「あんなおしゃれな服を着たって、私はどうせブスであることに変わりはないんだよ!あんたはみんなからチヤホヤされてる美人だから、あんなお店に気軽に入れるんだろうけど、私は違うの!!もう放っておいてよ!!」

桃を怒鳴り付ける。人の目と騒めきがうるさい。それに気付かないフリをして翠は再び歩き出そうとした。その時である。

「深町さん?」

聞き慣れた声に歩き出そうとした足がピタリと止まる。顔を上げれば、そこには聖司が立っていた。とても驚いた様子である。

「こんなところで会うなんて、偶然だね」

「あっ……その……」

嬉しそうな顔をする聖司に、翠は目をあちこちに動かして戸惑う。そんな二人に桃が驚いた様子で声をかける。

「えっ、翠の知り合いですか?」