閉じれない瞼⑥
農協職員:川口菜々の場合


「…まずは必要以上に、なんで自分がこんな目にあったのかって、そういう気持ちは持たないように心掛けることが肝要だと思う。私はね‥、あなた方と同じ現象に襲われてる日本人は、かなりの数に及んでると見てるわ」


「私たちと同じ境遇の人…、そんなにいるんでしょうか?」


「ええ…、私にはそう思えるわ。むしろ、今後はどんどん増えるって感じもする」


Hさんは、どこか確信があるような口ぶりだったと…。
この時の私にはそう見受けられました。



***



「要するにこうよ。…始めに何故って理由はスルーすれば、あとは今の状況をどうするかに絞られるでしょ?」


「はい、そうですね…」


「そこでまず明らかなのは、”そのこと”での災いとかはない。そうなれば解決すべき問題とは、死後の顔なんかを継続的に見せられるという精神的な苦悩に行き着くんじゃないかしら」


「ええ、そうなります」


「いい、川口さん…。そのおぞましいこの世のものではいない顔がさ、あなたの瞳を訪れるたび、この人は一体誰なんだろう…、何で私に…って、その都度考えちゃうでしょ。それをこの際、一切しない。難しい気もするだろうけど、要は割切っちゃえばいいのよ。ただの”現象”として…」


まさに、目からうろこが落ちた思いでした。
それは、どうしようもなくこんがらがっていた糸が、一瞬でほぐれた感触と言えました。


***


「…確かに恐いわよ。でも、自分と同じこの世を生きてる人間のいつかあの世へ逝った姿なら、まずは、それはそれとして受け止めたらいいんじゃないかしら。そこで、今現在、ギンギンに生きてるこの世の人間として、何を感じ取るか、悟るか…。そこに持って行けたら、ただの忌まわしいランダムな訪問者への見る角度だって違って来るんじゃない?」


「…」


この日、Hさんの言葉に、私は幾度も目からうろこを落としていたのでした…。