私がそう言ったのを聞いた先輩は、口元を片手で覆いながら、私から目を逸らした。


「え、先輩?」


 急に目を逸らされて、私は先輩が向いた方向に動いて顔を覗き込む。


「あーもう、見んな」


 でも、先輩が私の肩を押してくるので、先輩の顔は見ることができなかった。


「…はー、じゃあこれからは俺のことをそう呼ぶこと!…ーーじゃあな!」


 と、先輩は私の頭をポンポンとすると、そのまま私に背を向けて歩き出した。


 …ーーきゅん。


 その後ろ姿を見て、私の胸は途端に苦しくなった。


 さっきまで一緒にいたのに、別れるとまたすぐに会いたくなる。


 …ーーあぁ、これが恋なんだ。


 そう自覚した途端、私の世界はキラキラと輝き始めた。


 私は先輩の姿が見えなくなるまで、その背中を見つめていた。