「俺が西高にいた頃は遠足なんてなかったからなぁ」


おじいちゃんは、お茶をすすりながらそんなことをつぶやいた。


西高……つまり、黒刃高校が1つになる前の話。


その当時の伝説をいくつも聞いたことがあるけど、遠足がなかったのは初耳。


「そうなんだ。遠足ないの寂しいね」


「だろ?だから授業中、勝手にみんなで山にキャンプしに行ったよ。私有地だったんだけど、そこのオーナーがいい人でな。すっかり仲良くなって、今でも懇意にさせてもらってる」


「へぇ」


荒れていたらしい時代ならではのエピソードだなぁ。


おじいちゃんの口から出てくる学生時代のエピソードは、どれも奇想天外だから今さら驚かない……けど。


おかげで思いだしたことがある。


「あの、おじいちゃん……」

「ん?」

「……っ」


言い淀む。


ちょっと言いにくいというか……。
話しちゃっていいのかな……?


「なんでも言いな」とおじいちゃんが言うので、わたしは話を繋ぐことにした。