朝はどこのご家庭も戦場だと思う。

西ヶ浜家の朝も、やっぱり戦場だ。


洗面所はいつだって人で溢れていて、ワックスやら香水やらが混ざってよくわからない匂いがする。


廊下にはせわしない足音が響き、トイレの前には長蛇の列ができる。


その列はライブ会場の女子トイレかってくらい並んでいるときもあって、見るだけでげっそりする。


だけど、特にすごいのが台所。


雇いのハウスキーパーさんたちが、給食並みの量の食事を死にもの狂いで用意している。

立ち入ろうものなら包丁が飛んでくるかも。


どこのご家庭もこんな感じ……だったら困ります。


たいていはやることが忙しくてドタバタしてしまうと思う。

だけど、うちの場合は人が多くて戦場になる。


共同生活人数、現在50人。友だちを連れてくると必ず「広っ!」と感動されるくらい大きなお屋敷は、もはや合宿所のよう。


そんな西ヶ浜邸の本館からさほど離れていない別館──通称、秘密の花屋敷(はなやしき)


いわゆる女子寮のようなもので、わたし、西ヶ浜 苫(にしがはま とま)の自室はそこにある。


『秘密』と言われるだけあって、もちろん男子禁制の領域。


女性とハウスキーパー以外立ち入りを禁ずる、と大々的なルールが設けられるほどの別館に、



「きゃあああああぁぁぁ!!」



悲鳴が響き渡った。