「悪意に正面から向きあうな」


耳元で優しい声がささやいた。


普段はマイペースなのに、ふとしたときに落とすのはいつも優しさ。


わたしはそんな斑が大好きだ。



「うん」


大好きだからこそ、苦しい。


斑に好きになってもらいたい。
好きだって伝えてみたい。


でも、実際に行動ができない。


たとえば斑がわたしの気持ちを知ったとして、わたしのことをなんとも思っていなかったとしたら?


わたしはそれでもそばにいたいけれど、もし斑が、自分に好意を向ける人と関わりたくないって思ったら?


そんなネガティブなことばかり考えてしまう。


佐紺先輩たちに『認めさせる』って言ったように、斑にも『好きにさせてみせる』って言えたらいいのに……。


勇気がない自分が情けない。



目を閉じると、ゆっくりとまどろみに引きこまれていった。


あくびをしたときのような涙を目からこぼしながら、わたしは意識を手放した。


だから、



「俺以外の好意も無視しろよ」



斑の言葉は届かなかったし、涙を拭われていたことにも気づかなかった。