君が月に帰るまで


「彼女の家、この近くなんだよ。窓からふたりが歩いてくのが見えてさ。追いかけてきた」

ニカっと笑う表情は少しはじめに似ているけど、雰囲気は別物。眩しすぎる。

「そうなんだ。あ、昨日もあったよね。友だちのゆめさん」

「お……おはようございます」

ゆめは気まずそうに頭を下げる。昨日は向田に坂井のお嬢様だと紹介されたのに、はじめは友だちのゆめさんと紹介した。一体どういうことだろう。

「昨日はじめから聞いたよ。東京見学に来たんだってね」

穏やかに笑いかけながらそう言われて、
心配することはないんだろうと思う。

「そうだ、はじめは今日は塾だろう? 俺が東京案内に一緒に行ってくるよ」

「えぇっ!?」

はじめとゆめの声が重なって大きな声になる。

「でっ、でも来週僕と一緒に行こうって話はしてて……」

「色々見た方が楽しいだろ? 久しぶりに場外市場行こうと思ってたからいっしょにどう?」

「じょーがいいちば?」

「おいしい寿司とか刺身が食べられるよ。今いけばちょうど朝飯にいいかもな」

寿司、刺身。食べてみたい!!

「行きます! 連れてってください!」
「ちょっと、ゆめ!?」

はじめが止めるが、ゆめの目はもう寿司になっていた。

「決まり! 安心して、食べ終わったら家に送り届けるから。じゃいこうゆめちゃん」

「はじめ、いってくるねー!!」

あっけに取られているはじめをよそに、ゆめと零は駅に向かって歩き出していた。

「場外市場までは、電車で5分だから。すぐ着くよ」

「楽しみです、うれしい!」

「ねえ、ゆめちゃん言える範囲でいいんだけど」

零が申し訳なさそうに聞いてくる。首を傾げて顔を覗き込む。

「お姉さんは、元気?」

宇宙でいちばん硬い鉱物にでもなったかのように、首を傾げたまま、しばらく動けないでいた。

「……あ、えっと。元気です。姉と知り合いですか?」

「見てすぐわかったよ。そっくりだから驚いた」

「あの……えっと……」

しどろもどろになるしかなかった。何? かまかけられてるのかな。それとも?