君が月に帰るまで


「まだ、父さんも母さんも53だろ?あと10年くらいは大丈夫だとふんで、経験積んでこようと思ってる」

「はぁ……」

壮大な話についていっていない。それでも夢を追いかける人の瞳は美しいものだなとはじめは思った。

「自分の人生、楽しみたいじゃん」

ニカっと笑う零の顔。はじめには、なんだか前よりずっと逞しくみえた。

「そうだね、うん。僕もいますごく楽しい」

零は穏やかな笑顔をはじめに向ける。

「父さんと母さんには、俺から少し話しておくよ。それから家族会議だな」

「うん、僕もちゃんと話す」

「たぶん大丈夫だよ。二人とも、はじめが医者に向いてないのはなんとなく感じてたみたいだし」

「ええっ!?」

はじめは驚いて声を上げて思わず立ち上がった。無言の圧力をかけられてると思っていたのに、まさか見透かされていたとは。
「どうみても文系のはじめが、進路のことになると医者になるって小さい声で言うもんだから、なんだか可哀想だって言ってたよ。なかなか声かけにくかったみたいだし。素直に言えばわかってくれるよきっと」

カタブツの両親にそう思われてると初めて知り、はじめは驚いた。嬉しいようなくすぐったいような気さえする。

「心配しないで、勉強がんばれ」

思わず目頭が熱くなる。あっけらかんとした零の態度に救われた。

「ありがとう」

「じゃ、もう行くわ。彼女も待ってるし。あの子に挨拶してこ」

ガタッと立ち上がる零を何とか制す。