君が月に帰るまで



「うん、変わってない。T大の文学部をを目指すよ。いずれは大学教授か研究者になりたいと思ってる」

「……。それがお前のやりたいこと?」

「そう、これが僕のやりたいこと。父さんや母さんにもちゃんと話すよ。反対されたら家出てく。バイトしながら大学に入るつもり」

「おー、腹くくってるね」

零はパチパチと手を叩いた。

「零のおかげ。あれからね、勉強がはかどって仕方ないんだ。目標決まったら、ブレないもんだね」

「よかったな。なんかかわいそうなくらいだったからさ。お前の健気さが」

どうみても文系のはじめが、親の期待に応えようと無理矢理医者を志望する姿は、兄として心苦しかったと零は言った。

「病院は俺がなんとかするから、お前は自分の道を行けよ」

「……、ありがとう。零は? ほんとに今のままでいいの?」

「俺? ああ、いま幸せだよ。留学も、もう一年させてもらえることになったし、彼女はいるし、かわいいし。充実した人生だよ」

最初は一年だけのつもりだった零の留学。零の希望でもう一年伸ばすのことになったのは、つい3ヶ月前のこと。はじめは両親が電話で何度も零とやりとりしているのを見かけた。零なりにも、考えることがあったのだろう。
「医者になるのは……いいの?」

はじめがそう訊くと、眉を少し下げて零はほほ笑んだ。

「俺は、医者になりたい。たくさんの人に寄り添いたいと思ってる。それに、俺医師免許とって、何年か経験積んだら青年海外協力隊で海外に行きたいと思ってる」

「えっ……そうなの?」

卒業して医師免許を取得して、そのまま家の病院に就職するのだろうと思っていたはじめは、わかりやすく驚いた。