君が月に帰るまで



「あら、もうこんな時間。私そろそろ失礼します」

向田はそう言って、支度をすると帰っていった。

玄関まで向田を見送っていた零が、リビングに戻ってくる。テーブルを挟んではじめの前に座り、小さく息をつく。

「はじめ。あの子、誰?」ギクッ!!!
心臓が信じられないくらいドキドキする。やっぱり兄は騙せなかった……。はじめは動揺で目が泳ぐ。

「あの、えっと、その……」

「彼女?」

ぶんぶんと首を横に振る。

「友だち?」

ぶんぶんと首を縦に振ってなんとか、納得してもらおうとする。零は怒りの表情だ。

「いや、友だちはないだろ。家出? まさか監禁してるわけじゃないよな……」

「ちょっ……待ってよ。犯罪者じゃないからね僕。ちょっと東京見学に来たみたいで、近くに保護者の人もいるんだけど、ここの方がリアルに東京を感じられるからって……ほら、ホームステイ? みたいなもんだよ。来週には帰るって言ってるし、ちゃんと親御さんとの条件もあってね、性的行為はしないっていうことにもなってて……」

はじめは慌てて、説得する。月からきたこと以外はだいたい真実だ。

「……、性的行為……?? まあ俺にもそういうことが、まったくなかったわけじゃないから、あんまりとやかく言えないけど……」

零にも多少の心当たりはあるらしく、それ以上詮索されなかったので、はじめは安堵した。

零とはじめは五つ歳が離れている。両親が学会などで海外に行くとき、はじめは必ずついていっていたが、零は高校生になった頃から家で留守番をするようになった。その頃に多少のことがあったのではないかと推測する。「まあいいや。とりあえず、あの子のことはおいといて。この前話した進路のことだけど、気持ちは変わってない?」

はじめは姿勢を正して、すっと零の目を見つめた。