君が月に帰るまで

ふと前の方から鋭い視線を感じで顔を上げると、夏樹が鬼の形相でこちらをにらんでいた。夏樹!? 夏樹もここの図書館使ってたんだ。はじめはそう思いながらも鬼の形相をくずさない夏樹に背筋がゾッとする。

はじめが、ぎこちない笑顔で小さく手を振ると、夏樹はやれやれという雰囲気で目を下に落として勉強を続けた。

恐ろしすぎる。あんなに燃えるような嫉妬を向けられたのは初めてだ。

そう思うとあらためて、自分のかえでへのきもちは、恋ではないということを自覚する。

多分この場でかえでと夏樹が一緒に勉強していたとしても、あんな嫉妬はしないだろう。仲良いんだ、付き合ってるのかな、なんてのんきに考えるだけ。

だとすれば、恋愛感情なんて知らなかったことになる。独占したいとか、守ってあげたいとか、僕のことだけ見て欲しいとか。特別な存在になりたいとか。

それが恋だとすれば、かえでへの想いは芸能人を応援するような気持ちだ。目の前に芸能人が現れて、ドキドキしていただけ。今更そう気がついて、胸の中が静かになる。
そうか、僕はずっと勘違いしてきただけだったんだ。少し悲しくなったが仕方ない。

途切れ途切れの集中をなんとか維持しながら時計を見ると11時58分。ふとかえでに目をやると、もう机の上をきれいに片付けていた。

「お手洗いに行ってくるね。そのまま入り口いってるから」

そう小声で告げて、学習室を出て行った。夏樹の方を見ると、姿はなく机の上もきれい。いつのまに退席したんだろう。はじめは首を傾げながら、自分も片付けをして、図書館の入り口へと向かった。

入り口に向かう途中、窓から見えた外のベンチに、ゆめが座っているのが見えた。