「ゆめちゃんって、どこ出身なの?」
かえでが当たり前のように話しかける。
「ああ、えっと……三重県の伊勢市です」
えっ伊勢市? なんか突拍子もない所選んだな。不思議に思ってゆめを見つめる。ゆめは任せてと言う感じの目でチラリとはじめを見て、かえでと話を続けた。
「実はちょっと理由があるんです……」
「理由?」
「あ、ね、ゆめはけっこうなお嬢さまで、電車に乗ったことほとんどなくて」
慌ててはじめもフォローする。
「そうなんだ。何か困ったことあったら私にも声かけてね」
「ありがとう、うれしいです」
はじめは違和感でいっぱいだった。1日目はあんなにかえでと話すのを嫌そうにしていたゆめ。今の姿とは別人のようだ。
無理しているような、そんな顔つきがきになりながらも、図書館の最寄駅について三人で歩き出す。
「学習室あいてるといいね」
「そうだね、ちょっと遅くなったから」
ゆめは、はじめとかえでの話を聞きながらも黙っている。やっぱり何か変。
図書館につくと、ゆめはぱあっと顔を明るくして目を輝かせた。
M区の図書館は、ヨーロッパの図書館を思わせる豪華な造りが特徴。シックな内装の館内に、扇形に本棚が美しく並んでいる。ステンドグラスの窓から光が入ってきて美しい。
「はじめ、ここすごくすてきね」
ゆめはそう言って上を見上げていた。
学習室の利用申請をしようとすると。あと二人分しか空いていないと言われて、顔を見合わせる。
「どうしよっか、順番にする?」
「はじめ、私はいいよ。歴史の本が読みたいだけだし。本棚の近くにイスもあるよね?」
ゆめがそう言って遠慮する。
「ゆめちゃん、でも……」
「かえでさん、大丈夫です。私はちょっと東京見物にきただけなので」あれ? たしか、かえでには勉強しにきたって話したはず……辻褄が合わなくなるじゃん!?
「ちょっ、ゆめ……!!」
はじめがそう言っても、ゆめは知らん顔で話を続ける。怪しまれても知らないよ!?
