君が月に帰るまで



「気をつけて、いってらっしゃいませ」
「お昼はどこかで食べてきます。夕食の用意だけお願いします」
「わかりました」

向田にそう告げて、駅へと歩いていく
。夏らしい快晴で蝉の鳴き声がうるさいくらい。
駅について切符を買おうと、券売機に並んでいると後ろから声をかけられた。

「あれ? はじめくんとゆめちゃん? おはよう!」

透き通るようなきれいな声。それはかえでだった。

「おはよう。かえでもでかけるの?」

「うん、M区の図書館で勉強。あそこが一番落ち着くから」

「僕らもだよ。やっぱりあそこがいいよね。一緒に行こうよ」

ゆめは気に入らない顔でもまたするのだろうか、と思ったが穏やかに笑っている。

「うん、私初めていくから楽しみ。一緒にいきましょう」

かえでにそう話しかけている姿を見て、少しずつ慣れてきたのだなと、はじめは思った。

「じゃあみんなで行こう。電車すぐ来るよ」

ゆめに切符を渡して、乗り方を教える。かえでは少々不思議がっている様子だったが、そうもいっていられない。

「ここに入れると、こっちから出てくるから取ってちゃんと持ってて。降りる時もいるから」

「わかった」

おっかなびっくり改札機を通って電車に乗り込む。通勤ラッシュはもう過ぎて、空いた車内にゆめ、はじめ、かえでの順で座った。