「わぁ、すてき。ありがとうございます」

ゆめはうれしそうに笑って、サンダルを受け取るとさっそく履いた。

革紐が編まれたデザインで、3センチほどヒールがある。パチンとボタンを止めると、ピッタリだったようで、ゆめの顔がぱあっと明るくなる。

「やっぱり! よくお似合いです」

「ありがとうございます、いってきます」

そういってゆめは玄関のドアを開けた。はじめもあわてて向田にあいさつをすると、ゆめのあとを追う。

「待ってよ、塾の場所わかるの?」

ゆめはハッとして立ち止まった。

「ははっ、そうだった。ごめん教えてくれる?」

そう笑いながらゆめは、はじめが来るのを待って、半歩うしろをついていった。「お金、持ってきた?」

「うん、ほら」

はじめの母親の使っていないショルダーバッグの中に、これでもかとお札をつめてきたゆめ。道の真ん中でファスナーを開けると、お札が二、三枚飛び出した。

「わぁ! わかったわかった。早くしまって!!」

あわててお札を拾い集め、ファスナーを閉める。ざっと三十万はあっただろうか。お金は十分だ。

「お金って大事なんだよ。人に見せちゃダメだよ、悪い人につかまるよ?」

「子どもじゃあるまいし、大丈夫よ」

はじめの心配をよそに、ゆめはそ知らぬ顔で歩ついてくる。

「そうだ、朝。ごめんね、起きるのが遅くなって」

はじめは申し訳なさそうに目を伏せた。

「いいよ、勝手に向田さんが勘違いしてくれて助かった」

祖父の離れに続くドアが開いているのを不審に思った向田が、野球のバットを持って和室に殴り込んできたらしい。

もう起きて母のワンピースに着替えていたゆめは、腹をくくって三つ指ついて挨拶をしたそうだ。